屋上の風 |
見回す限りすべてが眼下にある。 高層ビルすら足元にあるこの眺めを、美しいと思うのはおかしいことだろうか。 そんなことを思いながら素子はわずかに唇を笑みの形へと歪めた。 地上では感じないほどの微風でも、この超高層の建物の、しかも屋上ともなれば台風並の風が吹く。ヘリから独りこの場へ降り立ち、たった今開始された突入作戦の様子を電脳通信で観ながら、素子は腰のホルスターの銃を抜き出す。慣れた様子で残弾を確認し、また元に戻す。 建物の中で爆発音がするのを聞き、オープンにした電脳から仲間たちの目から現状を把握する。 「相変わらず、無茶をするわね」 バトーが相手と殴りあいをするのを見て、素子は口にだして笑った。 建物を占拠した連中を人質に被害を出さずに掌握する。それが今回の任務であり、9課の再建の第一歩だ。気になる点は山ほどあるが、それを今論議しても解決はしない。時間がないのなら、できることからするだけだ。 素子は屋上の縁に足をかけた。 下をみれば間違いなく目が眩むほどの高さ。人も建物も点でしか見えない。屋上が空に一番近いとするならば、その高さもまた予測することができるだろう。吹き行く風を、その遥か彼方にある水平線を目にして、素子は身を躍らせた。 美しい影が風に舞う。 急降下しながらも、抜き放った銃口は階の一角に人質を取って立て篭もっている男を捉えている。光学迷彩に身を包んだ素子の身体を沈み逝く夕日が一瞬だけ光となって捕えたが、それに気付くものはいない。 やがて、目に見えぬ風のようにトリガーを弾いた素子が男を打ち抜くまで刹那の時も刻んではいなかった。 2GIGの最初のイメージ。素子だけが単独行動ですし。 |