忘れ物











悪名高き白金学園の校門を潜る一人の男。名だたる不良どもが男の姿を見るなりなりを潜めてしまった。なんせ男は任侠集団、大江戸一家の若頭補佐を務めている朝倉てつだったのだ。

「お嬢、忘れ物です」

一応本人の中では最大限腰を低くして職員室までやってきたてつの姿を見て、やんくみがてつの首にアームロックかけたままもうダッシュで逃げていった。もちろんてつは引きずられている。
そうして校舎裏まで走っていくとようやくやんくみは手を離し、周囲をよくよく警戒しながら酸欠状態で青くなっていたてつを見た。

「テツ、こ、ここへは来るなっていってるだろーがっ!!」

「申し訳ありません、お嬢。そいつは重々承知しておりますが、親分がどうしても届けろと」

朝バタバタしていてすっかり忘れていたイチゴ柄の弁当の包みをそっと差し出すてつをこれ以上叱るに叱れずやんくみは素直に受け取った。確かに親分が届けろといっていたが、てつがわざわざ持ってきたのは彼のお手製だからである。いつも献立には余念がなく、今日の弁当もてつの自信作だった。

「そ、そうか。そいつは悪かったな。でもその前に電話するとかなんとか方法が……」

「おっ、慎の字」

「げっ!!」

裏門へと向かっていたやんくみとてつは校舎の角を曲がったところで沢田にぶつかりそうになって慌てて立ち止まった。何気なく声をかけたてつの足を焦ったようにやんくみが踏みつけた。ギャッとてつの顔に油汗が伝うのを見て、沢田は内心唖然とする。
沢田にしてみれば見慣れた2人だが、やんくみが思わず青くなる。学校側には彼女の正体、というか実家の家業について秘密だ。沢田はもちろん知っていたけれど、やんくみがそれに気付いているとは限らない。そもそも度を越した野暮天のやんくみが気付いている方がおかしい。

「あんたは……」

「ちゃんとお嬢……じゃなかった、山口先生の授業、受けてるか?」

「ああ……まあ」

曖昧な返事をして沢田はなんとなくてつに同情する。やんくみが相手だとなかなか報われないのは目に見えていたからだ。

「そうか、そいつは偉ぇな。俺もあと10年若かったらお嬢の、い、いや授業を受けたかったんだけどなぁ」

「だぁ、用が済んだらとっとと帰るんだよ」

「へい、わかってます」

じゃあな、といいながらテツが手を振ろうとした。それよりも澤田の面持ちがどこか不敵な笑みを浮かべているようでギョッとする。

「……そいつは残念だな」

相変わらず冷や冷やしててやんくみは気付く様子もないが、どこか勝ち誇るような澤田の意味深な笑みになぜかむかつくテツだった。






コメント*ヤンクミは鈍いので(笑)比較的、慎→やんくみ←てつの図も好きです。