| 少し躊躇った理由
池袋は今日も良い天気だ。 ビル群が立ち並ぶ真ん中に開けた公園がある。ここら編で唯一落ち着けるというか、噴水があったり、ベンチがあったり、木々が並んでいたりして、街の中なのにホッとできる憩いの空間とでもいったらいいのだろうか。 ――― 池袋西口公園。 格好つけていう時には「I.W.G.P」。 池袋に住んでいるやつらはみんな後者で言うことが多い。各言うおれも後者だ。間違いなくこっちの方がカッコいい。 昼間から公園のベンチでゴロゴロと時間を潰すおれもおれだが、行き交人の流れの中で、片っ端から女に声をかけてまわるマサもマサだ。だが最近の女は女子高生でも抜け目無く、財布が寂しい男には近づきもしない。どうやって見分けるんだか……。 「今日はマヂで調子悪いな」 「お前はいつもだろ」 「そういうマコトだって、ここ最近ナンパに成功することなんかねぇくせに」 煩せぇな、痛いところ突きやがって。悪態をつこうかともおもったが、温かい陽光を浴びていたらどうでも良くなった。たまにはこうしてボーっとして置くのも悪くない。再びベンチに横になったおれを見て、マサは噴水の周りに座っている女たちのところへ出かけていった。 「よくやるなぁ、マサのやつ」 横目で見ながら、呆れとも感心ともつかない溜め息を零した時、ふと視界に影が差し込んだ。横目で見ていたマサに声をかけられて悩んだ格好をしている女の視線が不意におれの方へ向く。それだけではない。噴水や隣りのベンチ、信号待ちで立っている女、みんながおれの方を向く。 ぎょっとして半身を起こしたおれの視界に影を作った張本人の顔が映った。 「マコト、相変わらずだな」 いつも少しクールな声音は、おれの耳元で囁くように響いた。涼しげな面立ち、整った輪郭、鋭い眼、おれの日焼けした浅黒さとは正反対の肌。薄い色の口端がおれを見て笑みの形に吊り上がる。 「……タカシ」 Gボーイズのキングこと安藤崇。高校の時の同級生で、よくつるんでいた友達だ。この池袋西口を縄張りとするギャングボーイズのトップを張っている。喧嘩はもちろん頭も良い、切れ者だ。 女達の視線が向いたのはおれにではなく、残念ながらこのタカシに、だ。昔からそうだし、今更気にするのもなんだが実際のところ悔しい気もする。 ベンチの上に胡座をかく形で座りなおしたおれはタカシを見上げた。と、腹の中にあったモヤモヤ感をも吹き飛ばすくらい信じられない様を視界に入れて、思わず目を瞬かせる。 「おまえ……一人かよ」 タカシを見るとき、いつもは聳え立つ二つの塔を従え、どこにいくにしても護衛付きがもはやあたり前の光景だった。いつもの車もみえない。 高校の時は違うが、Gボーイズのキングになり、池袋中のグループを傘下に納める現状では、味方が多い代わり、敵も多い。もちろんタカシの喧嘩の強さ、特に俊敏なフットワークについていける奴なんていないけれど、それでも手段を選ばぬ方法に出られるとおれでも心配になる。 だからというわけではないが、タカシが一人でブラブラしている様は、とうてい想像できなかった。 「そうだが……どうかしたか?」 案の定、あっさりと告げられておれはまた唖然とする。そんなおれの顔が面白いのか、タカシはハッと息を吹き出すように笑った。高校の時には時々見ていた気がするが、Gボーイズのメンバーがいるときには決して見せない仮面のない笑顔だ。 「どうかしたかって…………何かあったのか?」 「いや……なぜだ?」 逆に聞き返されておれは言葉に迷う。大抵タカシからコンタクトがある時は、何かしら厄介ごとがあった時だ。伊達にトラブルシューターと呼ばれるおれではない。別に嬉しくも無いけど。 答えあぐねているとタカシが鼻で笑った。そうして胡座をかいたおれの耳元でそっと呟く。 「おれがお前に会いに行くのに、わざわざ理由がいるのか?」 勝ち誇ったような笑みにおれは目を瞬かせる。 わざわざ用もないのに会いに来たっていうのか? ただそれだけのために護衛の一人もつけないで。しかも、徒歩で。 「……それだけ?」 タカシらしくない、というか、タカシらしいというか、おれは少し躊躇して間の抜けた声で呟く。それが聞こえたのか、タカシは心外だといわんばかりに肩を竦めた。 「あぁ、それだけだ」 おれはこめかみ辺りがズキズキするような錯覚に囚われたが、溜め息で誤魔化す。なんとなくどんなリアクションをしてもタカシの範疇のような気がしたからだ。 「……上手く言えねぇけど、ありがとな」 何がありがとうなのか自分でもわからなかったが、タカシがおれに会うためだけにここに来たことだけはわかる。 ボリボリと頭を掻いて告げると、タカシはそんなおれの複雑な心中なんてお見通しという顔で小さく笑った。 タカマコです。別段怪しくないのに怪しいように見えるのはきっと私だけではないはず。とりあえずは原作のキャラっぽく。ドラマも好きです。タカシは絶対マコトのことがお気に入りだ。 |