曇りの無い、その涙















マコトとの再会は予想していたが、あまりにも突然で、あまりにも残酷な結末を用意していた。

羽沢組長の愛娘、俺達は彼女を『姫』と呼んでいたが、彼女が消えてから俺の中の時間も止まっていた。
いつもの定時連絡にいつもの口調で電話を切られ、通話の切れた受話器を忌々しく見詰めたのがすでに遠い昔のような気がする。あまりにも突然、姫はその姿を消してしまった。なんの連絡も、言葉も、存在も残さないで。これが悪い夢なら早く覚めて欲しいと願いながら、時間が経てば経つほど嫌な予感は膨れ上がり、俺の侵食していった。

これ以上、待てない。

俺も上もそう判断した。組長の落胆振りは下っ端の俺から見ても驚いたが、氷高さんは薄々覚悟していたような気がする。四方八方に手を尽くしながらも何の情報を得ることもできない状況で、藁をも掴む思いでいた俺は池袋西口でトラブルシューターとして変質ストラングラーを捕まえたという男の話を耳にした。それが俺と同じ中学出の真島マコトだと知ったのは、少し後のこと。
Gボーイズのキングを経由して、マコトに依頼を受けて貰えるように俺なりに無い知恵を絞った。氷高さんからの了承も得た。



そしてマコトと中学以来の再会を果たした。

あいつはやっぱり中学の時から変わっていなくて、どこか飄々としているのに奇妙なところで勘が良い。
初めは俺のことに気づかなかったようだが、つるんでいるとすぐさま思い出した。俺はヤクザとして飯を食っているというのに、マコトの話振りや態度は少しも変わらなかった。極道といえば、普通の道から外れた者だと、誰からも後ろ指を指されていた。

だが、マコトは変わらなかった。

相変わらず能天気なまでの笑顔で俺と一緒に姫を探してくれた。




姫を捜し始めてから、一週間。

期間ギリギリで俺はようやく姫と再会をすることができた。
案の定、言葉を交わすことは二度とできなかったけれど、俺の手で彼女を見つけることができた。覚悟を決めていたとはいえ、実際その場に直面した時の俺といったら、後で思うに悪い夢の続きをずっとみているような曖昧な感覚しかなかった。
ショックというのは強烈過ぎると頭の中がぼんやりするんだな。そう笑う自分がいた。

毎日、誰かが傷ついて、誰かが死んでいく。
その死に身近な大切な人が巻き込まれるなんて想像もできなかった。ヤクザだからじゃなく、人間が人間の中で生きていく上で、争いや殺し合いがあたり前のように繰り返されている中で、隣り合わせの毎日を送っている。

気付くのが遅かった。

俺達は常に『死』と背中合わせに生きているんだ、と。


冷たくなった姫を抱え、毛布で包み車に乗せた。
捜し続け、捜し続けて、こういう結末もあると心のどこかでは覚悟していたはずなのに、いざ目の前に突きつけられた現実はあまりにも冷たく、そして残酷で俺の思考を麻痺させる。探し出した安堵感と哀しくて叫びたい衝動が同時に俺の中を駆け巡った。

「お前の仕事は姫を『見つける』ことだ。ありがとうな、マコト」

誰よりも一番初めに彼女を見つけたかった。どんな姿であっても……。
その想いを遂げさせてくれたのはマコトで、この道に入るきっかけを与えてくれた兄貴でも、若頭の氷高さんでも、組長でもなく、中学の時、本気で俺と無茶したり、喧嘩したり、遊んでくれたマコトだったことが、嬉しかった。言葉でも態度でも現しきれないほど感謝している。

だけどマコトの俺を見詰める顔は、切迫していて哀しげで、今にも泣きそうな辛くて仕方ないって面をしていた。
俺のことなのに、姫を見つけ出してくれただけで充分なのに、これ以上お前は俺に何をしてくれようとしてるんだよ。

「礼なんか言うな。サル、お前これから……」

「ここからは俺の仕事だ。……マコト、ここから降りてしばらく歩けば駅がある」

「今更降りるもんか、サルっ!!」

「ここから先は、お前に見せたくない。わかってくれ、マコ……」

悔しくて泣きそうな、マコトの辛そうな顔を見て、俺は言葉を失った。
中学の時もそうだった。マコトはクラスでも一番人気があって、いつも話の中心にいた。俺とは違う世界にいると思っていた。だが、あいつは一緒にいて、一緒に悪さをして、一緒にケンカして、そして一緒に泣いたりもした。
今も、こうしてヤクザの俺を心配している。俺には過ぎた友達だ。

「……そんな顔すんな。本当に感謝してるんだ、マコト」

「俺はこんな結果のために力を貸したわけじゃない」

「悪かったな、マコト。……でも感謝しているのは本当なんだ。姫を誰よりも早く俺が見つけたかったから」

そういった瞬間、マコトは唇をかみ締めて、俺を黙って見送ってくれた。叫びたいのを我慢して、俺の心の代弁を何も言わないその顔でしてくれた。

車を歩道に横付けして助手席のドアを開ける。
無言で降りて、ドアを閉めようとしたマコトはただ一度だけ俺の顔を見た。最悪の結末を悔しげにかみ締めた唇と辛そうに寄せられた眉、そして俺はマコトが泣いているように見えた。

透明な筋がマコトの目元を伝う瞬間をみたような気がした。


「マコ……」


声をかける前にドアは閉められた。救いだった。マコトに俺はいったい何を言おうとしたのだろうか。今でもわからない。
あんなに苦しそうな辛そうな顔をして、それでも何の濁りもない涙を見た。気がする。俺の勘違いかもしれないけど。

俺の為に、純粋に泣いてくれた涙なんて、お前が初めてだ。




その後の結末は俺の小指と引き換えに、胸の底に刻み付けた。
姫との思い出も、その最期もすべて焼き付けて、それでも俺は進まなきゃならない。これが俺の選んだ道だから。


マコト、次に会うときは笑顔で会える。

小指は短くなっちまったけど、色が入った俺の背中の彫りものを見せてやるからな。













サル視点で。マコトに対する気持ちは友情以上恋愛未満だと。対等になりたいと思っているサルが好き。そしてホント素直なマコトが好き。