王様キング













気の会う連中との酒の席は、実に楽しい。他愛もない話でも結構真剣に語り合ったり、いろんな発見があったり。意気投合して時間が経つもの忘れてしまう。そういう奴らと呑むからこそ、酒も旨い。

「聞いてますかぁ、マコトさぁーん」

「あぁ、聞いてるよ、聞いてる。つうか、お前、さっきから同じことしか言ってねぇし」

マコトは隣りで繰り返すGボーイズの頭を小突いた。
Gボーイズの飲み会に運悪くほぼ無理矢理掴まったマコトは、IWGPの近くにある居酒屋にいた。ここはGボーイズのキングこと、タカシの顔見知りらしく店長が次々と酒や肴を持ってくる。Gボーイズの連中はざっと見積もっても50人くらいはいるだろうか。小・中・高校生とあまりにも未成年な連中はキングの命によって飲みには参加できない。突発的だったこともあり、総勢300人を超えるメンバーの一部しかいないのは言うまでもなかった。
マコトは自分でビールを注ぎなおし、口に運ぶ。周囲では和気藹々としたメンバーたちの交流と日常的な会話が聞こえていた。テーブルの反対側ではマサがGボーイズのメンバーと女の話で盛り上がっている。壁際ではなぜか京一とシュンと絵画の話をしているし、ウナギ屋のワッキーという太目のGボーイズと電波が楽しげに会話をしている。Gボーイズの飲み会とはいえ、混じってしまえばみんな一緒というのが良い所だ。居心地は悪くない。

「そういえば、マコトさん。キングって国際人なんですか?」

隣りに座っていたGボーイズの1人がいかにも酔った顔をしながら尋ねてきた。聴き慣れない話にマコトは首を傾げる。

「なんだよ、それ」

「だって、キング。『キッスは世界の挨拶なり』って。俺はてっきりそうなんだって思ってたッスよ」

口真似付きで説明してくれたが、マコトは呆れて真面目に取るなと言ってやりたかった。実はタカシ、酔うと誰構わずキスするキス魔になるということをマコトは知っていたから、なるべく酔った時には近づかないようにしている。巻き込まれると後が大変なのだ。

「いや、どう考えてもアイツ国内からでたことないぜ。少なくとも高校のときは、な」

素直にツッコミを入れてマコトはビールの残りを飲み干した。テーブルの上にも下にもすでにビール瓶はいっぱ転がっている。トイレにいく時には気をつけないと瓶を踏んですっ転ぶ連中が後を立たない。マコトがそう思っている端でも誰かが瓶を踏んで転んだ。

「そういえばマコトさん、キングと同じ高校なんッスよね」

「ああ、そうだけど」

反対側のGボーイズがそう言って話しに入ってくる。マコトは素直に頷いた。

「高校の時のキングもやっぱり強かったんスか?」

「あぁ、強かったよ。高校の時は、ケンカしてるか、飯食ってるか、寝てるかくらいだったからなぁ」

高校時代のタカシも確かに半端じゃなく強かった。山井の話ももちろんだが、他校との生徒の喧嘩はもちろん、卒業後の就職先ってどっかの組が名刺を持ってきていたくらいだ。もちろんタカシは笑って断っていたが。

「マコトさんも強かったんですよね」

「バーカ、今だって充分強ぇだろ」

「そりゃそうだけど……キングもマコトさんには一目置いてるし」

目を輝かせながら別のGボーイズとそんな話で盛り上がり始めた。マコトは彼らのボスであるタカシと親友だったが、Gボーイズには入っていない。集団が苦手なのもあるが、タカシとはそういうチーム抜きで付き合っていたい友達だった。
Gボーイズのキングと呼ばれるタカシの強さは高校のときから変わっていない。それどころかずいぶん強くなっている。スピードもセンスもずば抜けている。マコトも正直タカシ以上に強い奴をこの池袋で見たことはなかった。その上、カリスマ的な雰囲気も人を惹きつける空気もますます磨きがかかっている。そんな急上昇中の親友と同等だと果たして納得していいものか。時折、不安に思う。

「マコトは、タカシくんと同じ高校だったの?」

ふと視界に影が映った時には、マコトの隣りに黒いストレッチジーンズ姿の京一が手を振っていた。相変わらず動きが流れるようで洗練されている。印象的には穏やかなマスクだからタカシから受ける印象とは違うが、質は似ているはずだ。

「おっ、京一。なんだよシュンとの話は終ったのか?」

アニメオタクのシュンだが絵画にはかなり興味があるらしく、とくに造形画は詳しいのは知っていた。さっき帰国子女な京一と黙々と絵画の話をしているのを見かけたが、芸術という奥深さにはいろいろと共通点があるのだろう。マコトは京一の座れるスペースをなんとか作り出した。

「ああ、美術館の話をしていただけだよ。……で、3年間まるまる?」

「え?まぁな、とりあえず高校は無事に卒業したけど」

話題はさっきの高校時代の話が本題のようだ。マコトは曖昧に笑って頭を掻いた。昔の話はどうも照れる。

「ふーん」

「なんだよ、おれが高校卒業してたらおかしいか?」

興味があるのかと思えば、気の無い返事。マコトはわずかに眉を寄せた。京一はそんなマコトに気付いて小さく首を横へと振りながら甘い笑顔を向けた。

「違うよ。マコトはそうだろうけど、タカシくんも、っていうのが、ねぇ」

「俺が高卒だとなんか都合が悪いのかなぁ、京ちゃん」

曖昧に笑った京一に聴き慣れた声が降って来る。
気配もなかったのでマコトと二人して慌てて顔を上げるとGボーイズのキングこと、安藤崇が掌をヒラヒラさせながら立っていた。

「うわっ、ビビッた。タカシ、何してんだよ、オマエ」

「挨拶回りのチューしてる」

「はぁ?」

声を荒げるマコトを楽しげに見下ろしながらも、タカシは視線の端で京一を睨んだ。京一は鼻で笑った。

「別に他意はないよ、タカシくん」

「あぁ、そう。……で、マコッちゃんでラストね」

対して気に止めるでもなく、タカシはテーブルを挟んだマコトの対面にしゃがみこむ。周りにはすでに呻き声を発する酔っ払いと無残な食い散らかし、酔いつぶれたガキで溢れていた。
何がラストなのかわからず訝しげな顔をするマコトにタカシはにんまりと笑いかける。表面上変化はないが、どうやらタカシは酔っているようだ。

「え?何が?」

「挨拶のチュー」

「はあ?……ラスト、って」

見回すと京一共々全員が頷いた。京一はかなり不本意ながらも、といいたげだったが、そのようにマコトはわずかに頬を引き攣らせる。酔うとキス魔になるのは知っていたが、遊びだとしてもマコトは苦手だ。無論相手が女ならば嬉々とするところだろうが、何が悲しくて野郎と接吻しなければならないのか。しかも翌日覚えていないのだ、タカシは。

「じゃ、そーゆうわけで」

慣れた手つきでマコトの顎をそらせるタカシにギョッとしたのは本人だ。バタバタと手足をばたつかせ始めた。

「ちょっ、ちょっと待てよ、タカシ。ほら、みんな見てるし」

「大丈夫なり。これは挨拶なりよ」

「何が大丈夫なんだよ、全然意味わかんねぇって」

「キングの挨拶ですから、マコトさん、観念してくださいよ」

逆にGボーイズに説得されて気を抜いた隙をキング・タカシが見逃すはずはなかった。誰もが暗闇に光るキングの目を見ただろう。

「え?えぇーっ。ちょっと……うわっ」

顎を掴んだ手がびくともしなかったのでマコトは避けようが無かった。挨拶とは思えないディープキスに悲鳴をあげた者もいたような気がする。

「なんかおれらと違わくない?」

顔を見合わせたGボーイズの面々。

「挨拶のレベルじゃない、ちょっとタカシくんなんて羨ましいことを!!!」

京一が慌てて二人を引き剥がしにかかるのだが、酔ってタガのはずれたキング・タカシは強力だった。

「キングっ!!!」

「ぶちゅーなのねん」

「だぁぁ、な、何すんだよ」

真っ赤になった顔を両手で押さえながらマコトが抗議する。他にもいろんな意味で抗議している人もいるようだが。

「だって、挨拶なりよ」

周りからの非難などどこ行く風、ぺろりとタカシは自分の上唇を舐めた。

相変わらず賑やかで騒々しい彼ら、マコトの行く先々ではいろんなトラブルが待ち構えているわけだが、時にはこうして本人の意思、そっちのけのトラブルが発展していることを知らないマコトだった。




――― 恐るべき、Gボーイズのキング。












酔うとキス魔になるキング・タカシ。ドラマ版だとどう見てもそう思えるのは私だけか。マコトはアイドルだからな。その後の争奪戦が恐ろしい(笑)