| ※ドラマな話の上、ラストがかなり違いますんで、ドラマなイメージを崩したくない人は気をつけてください。いや、ホンマ。刺されるのがタカシじゃなく、マコトだったら、な話ですから。 |
| この痛みは誰かを傷つけた代償 |
昨日まで笑いあっていた仲間が、今日には殴りあう。そんな日が来ることなんて誰も想像してなんかいなかった。俺だって、ガキ同士の喧嘩がこんなにエスカレートして、そして見知った顔がある日突然死んでしまうなんて、思っても見なかった。 ――― 池袋西口公園。 俺が生れ、育った場所が、いつの間にか毎日血で血を争うような戒厳令を敷くくらいの無法地帯になった。主張を曲げられないガキの喧嘩の裏で、汚いやくざの攻防戦。利益が絡んだこの泥沼の戦いはやがて最悪の方向へと流れていく。誰かの策略か、単なる偶然か。 その中で、俺は独り、何もできずにただただ叫んでは走り回っていた。 「こっちも切羽つまってるの、わかるよねぇ」 いつも飄々としていたタカシが鬼気迫るように投げつけた言葉。 ブラック・エンジェルズとの攻防は日に日にエスカレートの兆しを見せ、G-ボーイズはもちろん俺のトモダチをも、傷つけ始めた。警察はなぜかタカシたちG-ボーイズばかりを目の敵にする。横山すらまるで人が変わったかのようだった。誰もこの戦争がただで済むとは思えない、そういう事態になっている。 ヒカルのこと、シュンのこと、すべてが悪い夢であったなら、どんなに良かっただろう。 ――― 『面倒臭ぇ』といいつづけたこの数週間。 俺は俺なりに「池袋内戦」の決着をつけたかった。 だが、ヒカルのこと、山井のこと、横山のこと、いろんなことが重なり後手後手にまわり、多くの奴らが傷ついたり、死んだりした。 黒い、羽が舞い散る中、冷たくなったシュンの死体を見た時、身体中の血の気が引いた。 こんなつもりじゃなかった。 誰も、傷ついたり、死なせたり……、 そんなことのために、俺はココにいたわけじゃなかったんだ。 「ブクロにキングなんでいらねぇんだ」 だって、そうだろう? 誰がこの街に王様が欲しいなんて、思ってんだ。 タカシだって、京一だって、初めからそんなもんになりたいと思ってたわけじゃないだろう。そんな窮屈な者になって、何が望めるっていうんだ。 誰が、『トモダチを殺せ』って言うような王様を欲しいと思うんだ? 俺は頭の中がごちゃごちゃで何をどうしていいのかわからなかったけれど、それでも昨日まで一緒にバカやって、笑っていたダチが今日には死んでしまうなんて、そんな馬鹿げた話はない。 お前らのやってることは滅茶苦茶だ。 面と向かって「ムカつくんだ」って言えばいいじゃねぇか。嫌ならタイマンで殴り合えよ。獲物なんて使わずに、誰かの背中に隠れるんじゃなくて、お前ら自身で考えろよ。 タカシが、京一が、2人が戦う理由に、くだらねぇ重りなんてつけるな。 遠くで雨が降るような音がする。 タカシに思い切り殴られて、腫れ上がった瞼を開くと、G-ボーイズとブラックエンジェルスの連中が手に手に持っていた武器がアスファルトに落ちて鳴る音だと気付いた。 「何だかんだ言って、一番面倒なのは、マコちゃんじゃん」 そういってはにかんだタカシは、いつもの顔に戻っていた。 タカシの解散命令、無言のままの京一。 波のように広がっていくこの音がくだらないガキの喧嘩に着け込んだ大人の汚ねぇ攻防に誰もが気付いたことを知らせていた。 二分した仲間、毎日の殴り合い、そしてシュン、ミツルの死。 取り返しのつかない傷だけを残し、終る悪夢のように……。 「まだ、終りじゃない」 小さな女の子がたっていた。ギラギラと光るような目で俺を見ている。 ああ、知ってる。 この内戦で傷ついた、ブラック・エンジェルズのガキの妹。 病院で、泣きながら兄の横たわるベッドにしがみ付いていた。 そして、俺のことを……なんて言っていたっけ? 『……裏切り者』 ――― あぁ、面倒臭ぇ。 「マコちゃっ……」 小さな手に握られていたナイフ。その切っ先を必死に握り締め走ってくるのを見て、タカシが顔色を変えた。伸ばしたタカシの白い腕を俺は薄く笑って遮った。 鈍い音と共に走る痛み。息が一瞬止まって、呼吸の仕方を忘れた。 ほら、お前ら。 刺されりゃあ、やっぱり痛いじゃねぇか。 血だって、流れる。 本当は、お前ら全員片っ端から刺されてみりゃあ、どれだけ痛いか、わかるんだろうけど、そんな面倒臭ぇ真似をするのも面倒なんで、俺が代わりに味わってやったぞ。 どうだ、楽しいか? ……こんな、こと。 耳元で自分の脈が聞こえる。歯を食いしばっても痛みは少しも遠のかない。ナイフの生えた足からは痛みと血が流れるだけだ。 この痛みは、誰かを傷つけた代償。 お前らいい加減気づけ。 後日談 嵐のように広がった内戦は、同じく嵐が過ぎ去ったように収まって、俺は未だにベッドの上。 いい加減退屈で、「面倒臭ぇ」とぼやいていたら、タカシが俺んちのメロン持って見舞いにきた。なのに病室で食うなよ。 「見舞いに来たナリ〜」 「おぅ、サンキュ」 横山は一度だけ見舞いに来て、刑事を辞めたといっていた。バカ正直だと思うけど、奴らしい。 吉岡は相変わらず雑誌の差し入れをくれる。 京一は、親の残した家に移り住んだ。ダンスのオーディションを受けると見舞いに来た時に言っていた。あの甘い顔だ、人気はうなぎ昇り、近い将来もしかしたらテレビ画面で会えるかもしれない。 「マコちゃん」 「ん?」 「マコちゃんさぁ、なんであの時……」 とまで言いかけてタカシは口を噤んだ。幾ら待っても続きのないままで俺は気になって顔を向ける。 「あの時がなんだよ……タカシ?」 「いや……やっぱマコちゃんはかっこいいナリ」 と、曖昧に笑うタカシ。 何が言いたかったのか、少しだけわかったような気がしたけれど、俺は面倒臭くて何もいわなかった。 退院したらやることも山積み。今回のガキの戦争は深い傷だけを残していった。ダチの死。それが何を意味するのか、わからない俺たちじゃない。 「そーいえば、お前。これからどーするんだ?」 G-ボーイズ、解散したんだろ。 そう尋ねたら、タカシはニヤッと口端を歪めた。なんとなく不敵な面に嫌な予感が浮かぶ。 「解散じゃないナリ、『会社にした』ナリよ」 「はぁ?なんだよ、それ」 どこぞのギャグかよ。真面目にツッコミ入れそうになったぞ。 そんな俺の内心など知らぬ顔でタカシは、ずぃっと顔を近づけてきた。嫌な予感がますます広がる。 「つうわけで、入れ、マコちゃん」 目が笑ってない。間近で見るタカシの顔は真剣そのものだ。 「ヤダ、メンドクセェ」 「だぁー、入れよ、マコちゃん」 俺のベッドの上に馬乗りで暴れ始めるタカシ。怪我人に何しやがんだ、と叫ぶ俺。 そんな中、不意に病室のドアが開いた。ひょっこりと頭を覗かせたのはサルは、俺と目が合うと呆れたように笑った。 「襲われてんぞ、マコト」 ニヤニヤと笑いながら入っていたサルにタカシはマヂで眼を飛ばした。 「何の用だよ、サル」 声音がひんやりとしている。こんな時のタカシは目一杯、喧嘩っ早い。だが、サルは肩を竦めただけだ。 「見舞いだよ、見舞い」 内戦の時、裏でブラックエンジェルスを操っていた(といっても山井と他数名だけだが)京極会に縄張りを荒らされていた羽沢組は俺たちが暴露した結果、元の様に戻っていた。 直接羽沢組の世話にはなっていないものの、サルはあれから何かと病室に顔を覗かせていた。 今日も黒のスーツをびしっと着こなして、両手に花束と果物籠。だんだん様になっているようで俺の内心は複雑だが。 「そっちの状況は?」 「まるで悪い夢でも見てたみたいに元に戻ったよ」 「悪い夢……か」 だったらいいのにな、と、おれは苦く笑った。サルも小さく頷いた。 失ったものは二度とは戻らない。亡くなった者は帰ってこない。 これが悪い夢なら、さっさと覚めてもとのように戻って欲しい。悪い夢なら、また池袋ウエストゲートパークで絵を描くシュンの姿を見られるはずだ。夢が醒めさえすれば。 「マコちゃんが退院したら、あいつらに会いにいこ」 「……そうだな」 決着はつけた。望む形ではなかったかもしれないけど、その報告をしなければならない。 誰かを傷つければ、必ず自分に返って来る。 それが、このザマだ。シュンを助けてやれなかった、気付いてやれなかった。ヒカルを、ミツルを……そう悔やんでも悔やみきりない現実だけが、残った者に圧し掛かる。 その傷の痛みを持って、俺達はこれからも生きて行く。 呟き:めちゃめちゃ捏造。でもドラマを見たとき、どう考えてもブラックエンジェルスの方がやりすぎだと思ったの。だから最後にタカシが刺されるのはなぁ……と思ってた。で、刺したあの子に病院であった時「マコトは〜」ってあったから、どっちにもつかないで中途半端な奴、と思われてこんな話ができてみたんです。すいまそん。 |
| タイトル * 「中途半端な言葉」さま より |