ダンデライオン










「キング、マコトさんが到着しました」

「あぁ、いくぞ」

黒塗りのワゴンを道べりに止めながらツインタワー1号が告げるのを俺は窓越しに夜の池袋西口公園を見ながら聞いていた。夜になっても賑やかな公園周辺は車の中にいても喧騒が聞こえてくる。

そうして見渡すガキたちの中にマコトの姿を見つけると俺は静かにサングラスをかけた。










――― 誰にも俺の前を立ち塞がらせない。

そういう生き方をするためにこの街でグレーに浸かって生きている。誰もが畏怖の視線を向ける。おかげで喧嘩を仕掛けてくるようなバカな連中もいなくなった。
G-ボーイズの名前と「王様」が、この街の通り名みたいなもんだった。


思うままに生きる。そういう生き方をするためには誰もが俺を恐れるのは仕方のない話だ。そういう世界に浸かっても尚、遣りたいことをするために俺は独りここにいる。

だが、一人だけ、相変わらずの笑えない冗談をわざわざつく奴がいる。
あいつだけは、俺のことを怖がらない。そして、媚びずにそこに立っている。ただ立っているだけなのに、なぜか俺の視線に入る。それは見渡すところが一人じゃないってことだ。

仲間が欲しいわけではない。役に立つ奴はいるにこしたことはないが、同志が欲しいわけじゃない。ただ、この街で俺の好きなように生きていたいだけだ。

そのために斬り捨てなければならない物も、失わなければならない者も多かったが、マコトは相変わらずそこにいて、気が向いた時にこっちを向いて笑っていた。











「タカシ。マヂでヤバイぞ」

公園に足を踏み入れると歓喜と悲鳴が高まった。ガキたちが俺の姿を見つけてはしゃいでからだ。
だが、それに気押されることもなく俺の傍までやってきたマコトがそう渋い顔で言葉を紡いだ。トラブルメーカーとして俺すら羨ましくなるほどのトラブルに巻き込まれては解決しているマコトは今回もまた厄介なトラブルを請け負っていた。
もともとはこっちヤマだったが、マコトのところに助けを求めた奴から間接的に巻き込まれている。苦く告げたマコトの横顔を俺はチラッと一瞥した。
マコトが巻き込まれた今回のヤマはいつもより黒に近い領域で、これ以上関わらせればマコトにも俺にも危険が及ぶことは避けられない。それはすでにわかっていた。

「ここからは俺の領域だ。お前が首を突っ込むことじゃない」

「お前だって危ないんだぞ、タカシ」

サングラスをかけた俺の顔を覗き込むようにマコトが詰め寄る。一瞬ツインタワー1号に緊張が走るのがわかった。俺にこうも容易く触れる人間はいないからだ。



「俺のことはいい」

俺はそっと息を吐き、顔を歪めるマコトを見下ろした。

そう真顔でいうなよ。見ている俺の方が辛い。

言葉にはしない。するべき言葉でもない。こういう世界に浸っている以上時には避けて通れないこともある。それはよくわかっているのだ。だからこそ、マコトは俺を心配する。王様ではなく、安藤崇という同級生を、だ。

本当ならこんな世界の存在など生涯、お前は知らなくていい。お前がいて良い場所じゃない。

そう言っても奴は聞かないだろうから、俺は何も言わずに溜め息を吐くだけだ。




「マコト……お前はそのままでいろ」


呟く声はクラックションにかき消された。
乗り込むワゴンの傍にツインタワーが佇んでいる。顔を顰めたマコトの額にデコピンして俺はさっさと乗り込んだ。何かいいたげな顔で見ているマコトを一瞥してすぐにドアを閉める。ここからは俺が望んだ世界での闘いなのだ。




この喧騒に包まれた街でも独りじゃないと思えるのは、お前がこの街にいるからだ。
そうしていつもお前が俺を見るから、俺は少しも寂しさなど感じない。
お前が代わりに泣くから、俺はもう泣かない。
クールなキングと呼ばれても、心の奥に秘めた熱い想いをお前が知っているから、だからおれは一人で良い。











呟き*タイトルはいわずもがな「BUMP OF CHICKEN」から。あの歌詞で泣きそうになった。