泣き出した空の下で僕ら










雨の気配を感じていた。
空気がどこか重みを増しているから、通り雨くらいは来るだろうと思っていた。そういう勘は外れたことがない。

池袋西口公園を横目に車が流れていく。


ふと、目にしたベンチにマコトの姿を見たような気がした。




その後、分刻みの予定をこなし、建物の外へでた頃はすでに夕闇。そしてまるで計っていたかのように雨が降り始める。空を見上げると、ビル郡の合間から灰色の雲が覗いている。濃い灰色の雲がこの後続く雨の激しさを物語っていた。
促されるまま車に乗り、そうして来た道を帰る。どうやら今日ばかりは自宅へと戻れそうだ。そんな予感がした。

池袋へと差し掛かる頃には日が沈み、街中が派手なネオンに包まれる。昼間よりもこの暗闇のネオンの方が安心感を覚えてしまうのは、もはや職業病のような気がした。
この交差点を曲がれば、いつもの池袋西口公園が見える。昼間とは打って変わって闇の中にわずかな街灯が光るだけの公園。周辺のネオンに気圧されて、その存在は薄くなる。この公園だけがまるで夜の街から取り残されたような状態になるのだ。
だが、今は雨が降っているから帰路を急ぐ者ばかりで公園には誰もいないはずだった。

ふと、視線を外へ向けた自分の目をタカシは疑って息を飲んだ。一瞬、心臓を鷲づかみにされたような衝撃。見えるはずなんてない、この暗い中で、雨の降り続く公園のベンチで、いるはずのない者の姿を見た気がした。

「停めろっ!!」

無意識に叫んでいた。車の急ブレーキに身体が揺らぐ。不安めいた気配が運転席から感じたが、構わずドアを開いた。雨は激しさを増し、路面には水溜りができている。

キング、と呼ばれた気がしたが、タカシは返事をしなかった。






走ると足元の水が跳ね上がった。それも気にせず全力疾走をする。息が弾むより、身体が軋むより、消えそうな幻影の方が気になった。


そこには濡れたベンチに座ったままのマコトがいた。

俯いていて表情を察することはできなかったが、真一文字に引き結んだ唇が紫がかっていることに気付いた。すでに全身ずぶ濡れだ。
いつからここにいたのか、と尋ねることはできなかった。
車で通りかかったとき、見間違いかと思ったあの時からマコトはずっとここにいたのかもしれない。

タカシは無言のまま歩き、マコトの前で足を止める。
雨音が言葉すら消し去ったように、口を開くことはできなかった。
長い間どちらとも声を発することなく、雨に打たれていた。

どれほどそうしていたかはわからない。ゆるゆると顔を上げたのはマコトだった。

――― なぜ、ここにいるのか。

マコトは不思議無そうな表情で問い掛けた。そこに言葉はなかったが、マコトの顔がそう告げていた。ひどい顔色だとタカシは眉を寄せたが、ことさら口に出すことはしなかった。

代わりに口を開いたのはマコト。

「濡れてるぞ」

掠れた声を隠そうともしない。それだけの余裕が今のマコトにはないのだ。タカシは顔色一つ変えぬまま、髪を掻き揚げる。

「お前もな」

「"キング"がこんなことで風邪でも引いたら笑いもんだ」

「笑わせておけばいい」

にべもなく言い放ち、タカシはマコトの鼻先まで顔を近づけた。突拍子もない行動にマコトがわずかに目を見開く。すぐそばにタカシの黒い目があった。

「お前なら別だがな」

マコトが「キング」と呼ぶこと自体おかしい。だからと言って理由を聞くことはできない。マコトも望みはしないだろう。

「タカ……」

言いかけるよりも早くタカシがマコトの袖を強く引いた。つられて思わず立ち上がり、困惑したように視線が彷徨わせる。
来い、と短く告げられた声に反対する間も与えず道に横付けた車へと引きずっていく。数メートルなすがままに引っ張られたマコトが今更慌てたようにタカシの腕をつかみ返した。

「ちょっと、タカシっ……」

「話は後で聞く」

有無を言わせない冷たい声音にマコトが戸惑う。

「待てって」

マコトの抵抗にもびくともせず、頑として譲らず歩いていく。半ば諦めたが、この細身のどこにこんな力があるのか、マコトは真剣に考えざるを得なかった。
目の前に暗色のワゴン。音もなく開いたドアの向こうでツインタワーがマコトの様子を一瞥し、サングラスの下で動揺したような気がした。唖然としてドアの前に立ちすくんだマコトを引きずり込む。

「そんな面、しているお前が悪い」

車体に打ち付ける雨音がタカシの声を掻き消した。







呟き*タカマコ。過保護すぎるな。うーん、まとまりナッシング。