| 街中の逃避行 |
今日は、G-ボーイズの集会。あたしはG-ガールズ。 クールでカッコ良い『キング』に会える日だからちょっと今からメイクに力いれちゃうよ。 IWGPを横切って、トイレに向かっていたらちょうど横から走ってきた男があたしの肩にぶつかった。なんとなく予測はしてたからころぶなんて真似はしなかったけど、ヒールがアスファルトの割れ目に挟まって足首が小さく痛んだ。G-ガールズのあたしに恥じかかせようなんて、一体どんなヤツな………あれ? 「あ、悪い。ちょっと急いでて、ごめんな」 見上げるほど高い背、目深に被った紺の帽子、ジーパンにジャケットと決して着込んでるわけじゃないラフな格好なのにどこか目を惹く不思議な雰囲気。 この雰囲気、誰かに似てる。 「怪我は?」 ――― 大丈夫です。 あたしが早口に思わず答えた瞬間、男はニカッと笑った。何故かこの雰囲気があたしの知ってる誰かとすごく似てる気がする。 でもその人は、決して人前でなんか笑ったりしない。クールで近寄り難くて、それでいてゾクゾクするほどカッコ良い。 あたしたちのリーダー、G-ボーイズのキングは、決して笑ったりしない。 「顔、赤いけど、ホントに大丈夫か?」 突然顔を覗き込まれて、あたしは目を丸くした。男の人なのに意外と睫毛長いっ!って、そんなこと言ってる場合じゃない。 ――― 大丈夫だから、本当に。 もう一度早口に言うと、その人は安堵したように小さく頷いた。顔を離して、周りを見回す。 「あそこのベンチ、日陰だから休んでいったらいい」 ちょこんと指差すベンチ。いつも見慣れたちょっとペンキの剥げた円形のベンチ。小声でそう告げて、その人はまた周りを一度見回した。誰かを探しているような視線。 ――― 誰探してんの? 気付けば口から零れていた。その人は一瞬驚いたような顔をしたけれど、でもすぐにまた笑って首を少しだけ傾げた。 「うーん、悪友かな」 ――― 悪友? 「いや、腐れ縁かもな」 そう言ってまた笑って、照れたのか頭を掻いた。その仕草がどこか年に似合わないほど可愛くてあたしも思わず笑っていた。その人はそんなあたしを見てにんまり笑い、ベンチまで歩いていって手招きした。あたしが首を傾げると、自分の腕時計を見てからそこに座り、そうしてもう一度手招きをする。 隣りへ座れってことか。まぁ、まだ時間はあるから別に良いけど……。 ――― 腐れ縁って、幼馴染? 「高校の同級生。あいつ、喧嘩強いからな」 どこか懐かしげに話すその声音がちょっとだけ寂しそうに聞こえた気がした。何故だかわかんない。横目にはその人の二の腕が見えた。細身だけどがっちりしていて鍛えられてるってカンジ。肩幅も広いな。 「卒業したら別々で……あんまし顔合わせる時間もないんだけどな」 こういう口ぶりが友情だなって思う。女の場合、あんまりないから。仲良かった友達も恋人でもできちゃえば結局は離れちゃう。それがうらやましいと思うな。 ――― 地元じゃないの? 「ココだよ、池袋。住んでるけど、まぁ、世界が違うっていうか……」 よくわかんないけど、近くにいるけど一緒にはいられないってことか。でもまぁ、卒業したらそれっきりなんて多い話だし。それを考えたら顔が見られるだけでも良いんじゃないかな。 そんなことを考えていた。 ふと、そこであたしってばなんでこんなところで名前も知らないような人と話し込んでるんだろう。 ほかのG-ガールズに見つかったら、マヂヤバくない? キング命なはずなのに、知らない奴と一緒に話し込んでたら絶対からかわれるし‥‥。 「マコト」 周りはとてもうるさくて、下手をすると隣で話す声さえも聞こえないことだってあるのに、低く呟くように聞こえた声にあたしは背筋がぞくっとした。本能的な命の危険を覚えるような冷えた声に身体が無意識に硬直する。背後からやけに耳につく靴音が一つ近づいて、そうしてとまった。 あたしは怖くて振り返れずにいたのに、隣に座っていたその人は呆れたようにベンチを立ち上がり、振り返る。 「人の背後ばっかり取ってるなよ、タカシ」 声が今までのとは違ってた。 説明できないけど、何かホッとしたようなそんな響きがあった。あたしはゆっくりとなるべくゆっくりと振り返る。 「悪いな、遅れた」 悪びれた様子もなく、告げた声は聞き覚えのあるものだった。いや、あたしがずっと憧れてきた人の声だった。 そこにいたのは、キングだった。 正真正銘、G-ボーイズのキングが立っていた。あたしの目の前に、いやこの人の目の前に‥‥。 ここでは顔を知られすぎているから人目を憚るかのようにかけたサングラスなのに、逆にそれが似合いすぎて周囲から注目を集めている。それに気づいているのだろう、なんとなく居心地の悪そうな雰囲気がわかる。 でも、目の前にいるのは間違いない『キング』なのに、いつも集会で見る時のキングとは違う気がした。直感って奴。理由なんかわからないけれど、どんなときにも沈着冷静でクールでカッコいいキングの冷たさがココにはなかったから‥‥。 ――― あの…… 「あぁ、ごめんな。ようやく来たんだ、俺の悪友」 キングになんて口を‥‥と思わず声が出そうになった。それよりも何よりもあたし自身が驚いてたから、頭の中も何もかも真っ白だったんだけど。それでもの人のそんな軽口をキングは鼻で笑ったようだった。それが何よりもあたしは驚いた。 「マコト、お前がこの忙しい時に、呼び出したんだろうが」 「ま、そういうことにしとくよ」 マコトって……まさか、あのトラブルシューターの真島誠……さん!? G-ボーイズも一目置いているっていう、この池袋の顔。マコトという名前はあたしはでもよく知ってた。顔はよく知らなかったけど、それはボーイズとは違ってあたしたちガールズはそこまで一緒に動いたことがないからだ。それでも事あるごとに『マコト』の名前は聞いていた。 何よりもキングが一番彼のことを口にしていたから‥‥。 この人が、マコト‥‥さん、なんだ。 「乗れ」 「早いんだよ」 あきれたように呟くと、ほんの一瞬だけキングが笑ったような気がした。それはたんなるあたしの勘違いなのかもしれないけど、楽しそうな顔をしてた。 「置いて行くぞ」 「あー、悪かった」 どこか楽しそうな顔をしたキングがマコトサンと一緒に車に乗って消えていった。 あたしはそれを何もいえぬまま見ていた。だって、あまりにもうれしげな顔をしていたから‥‥。これ以上、言葉なんかかけられないよ。 呟き*タカマコ。「第三者視点から」ということで即興のG-ガールズから。マコトは本当に集会には来ないと思うんで、名前はすごくビックだけど、顔は意外と知られていない気がする。 |