構成するモノ







人は形作られるもの以外に、そのものを構成する性分が存在するものだ。




「絶対そうだって」

「ちがう」

「ちがわねぇっ!!」


そんな声が街中に響いていた。

ココは池袋西口公園。
のんびりした土曜の午後、いつもより少しだけ私服姿の多いスクランブル交差点。止まった車がすかさずクラクション。昼でも夜でも賑やかなところだ。
こんな公園の一角で、いかにも私服ですのマコトとお忍び中の芸能人みたいなタカシがいた。でかい声をあげていれば、バレても仕方ないくらい目立ってる。

なんとなく気まぐれで声をかけた方が良さそうと思ったのか、はたまたついついビルの窓越しからだれかさんの姿を見かけたからなのか、ため息一つ零してサルが2人のところにやってきた。

「真昼間から元気だなぁ、マコト」

声をかければ珍しく、2人してサルに気付いていなかったのか驚いたような顔で振り返る。とはいえ、タカシの方は眉一つ動かさなかったけれど。

「サル、いいところにきた」

「は?」

マコトはいうと、パリッとアイロンの効いたYシャツ姿のサルの首根っこを押さえるように唐突にその首へと腕を回す。確かにサルよりもマコトの方が上背があるけれど、この行動はあまりにも突飛だった。

「お前はどう思う?」

「何が?……ちょっと待て。落ち着けよ、マコト」

「往生際が悪い」

呆れたように呟くタカシにマコトは食いかからんばかりの勢いでサルの首を締め付けた。

サルは公園の中のマコトの存在に気付いていたとはいえ、その会話の内容など聞こえるはずも無い。ただGボーイズのキングと珍しく言い争っている雰囲気にからかいを兼ねた野次馬に顔を出しただけなのだ。

自ら渦中に飛び込んだのだと気付いた時にはすでに遅い。何がなんだかわからないままサルは久々に命の危険すら感じていた。








「日本の読み方は『ニッポン』が正しいよな!」





「はぁ?…………なんだ、そんなことかよ」

唖然としてサルが肩を落とした。首にかけられた腕の存在も忘れて思い切り脱力する。つられてマコトも前のめりになりかけた。だが、怪訝な顔つきで踏ん張る。

「そんなことじゃねぇ」

「別にどっちでもいいだろうが、そんなの」

「良くねぇから言ってるんじゃねぇか。サルのバーカっ!」

勢い良くサルの首から腕を放してマコトはまるで子どもみたいにベーッと舌を出した。

「バ、バカって……なんで俺がバカ扱いなんだよ。だいたいな、日本の読み方は『ニホン』でも『ニッポン』でもどっちでもいいんだよ」

「なんだよ、それ。なんで2種類もあるんだよ」

「俺に聞くな。そういう話なんだって」

辞書でも調べろ、と鼻で笑われてマコトは仏頂面になった。しかもサルにあっさりと言われる自分の低さに思わず自己嫌悪。
それを察してかタカシは宥めるような顔で口を開く。

「『日の本』から日本になったんだ。だから言っただろ?」

「ったく、どっちでもいいなんてなんて中途半端なんだ」

まだ納得できないのかブツブツとなにやら零しているが、先ほどまでの勢いはすでになくなっていた。なんとなく恥かしくて照れているのかもしれない。
そんな様子を見ていたサルが何かを思い出したのか小さく笑った。

「ホント、マコトは昔っから変わってねぇなぁ」

「昔から?」

珍しく反応を見せたのはタカシ。サルの何気ない言葉が彼の中で引っかかったらしい。

「ああ、中学の時もそういやぁ、こんな類いで言い争ってたの聞いたわ」

それに気付かないまま軽く笑い声を零してサルはそっと肩を竦めた。

サルは高校は違うけど中学の時はマコトと一緒だった。タカシとマコトが会ったのは高校の時からだ。知らないことがあるというのは人間だれでもなんとなく気に障る。

「気になることはとことん突き詰めないと気がすまないんだなぁ、相変わらず」

サルはどこか楽しげに笑っていた。

マコトの主たる性格の中で、気になることにはとことん突き進むというのはタカシにしてもサルにしても共通理解している部分だ。それがマコトの長所だし、短所でもある。


「……確かに、な」

一つ考え込むように口を噤んでいたタカシがしみじみと呟いた。

一旦興味がわくとマコトはサルの住むダークな世界にでも、タカシのいるグレーな世界にでもところ構わず飛び込んでいくだろう。そこで追うリスクなんて何も考えずに。トラブルシューターとして名前が知られるようになったのも、良くも悪くも飛び込むからだ。筋者に知られている、というのもなんとなく嫌な感じではあるが。

それがサルの言うように『昔から』であるならば、今更治るものでもないだろう。

それがわかるから二人とも曖昧に笑って誤魔化すのだけれど……。



「おらっ、2人ともニヤニヤするんじゃねぇよ」

膨れっ面のマコトがタカシとサルを交互に指差した。








呟き*タカシとマコトとサル、で。マコトは猪突猛進型だと思う。