COOL & HOT SOUL







店内は薄暗く、足元がようやく探れる程度の照明がカラフルな色合いで浮かんでいる。一つ一つがボックス席。入口から近い客席には素人と思える人間がちらほら酒を飲んでいるようだが、奥のボックス席にはそれそうおうの人種が周囲を警戒しながら座っている。
明るい日中には見かけないような強面が店内に入ってきた人物に気付いて足音も無く奥へと消えていった。
決して低くない店内へ背をかがめるようにして入ってきたサングラス姿のツインタワーを従えて、薄暗い室内でも一際目を引く青年がさして興味もないように奥へと歩いていく。その足取りにまったく迷いはなく、放つ氷のような雰囲気に誰もが目を反らした。有無を言わせぬ威圧感に気圧されているからだ。

この世には、白と黒の人間がいる。白は黒の存在を知らないし、黒は白の存在とは相容れない。時々白が黒になったり、黒が白になったりするが、それもわずかな数でしかない。
その間にグレーの奴らがいる。白でも黒でもない。いや、白でも黒でもある。白の世界にも黒の世界にも中途半端に存在する。それは白であったり、黒であったりもする。

社会の表の部分に生活していながら、社会の闇がそこにあることを知っている。そういうグレーな世界の一つの集まりにGボーイズという組織がある。組織というほどではないが、主に中高生以上の若者が多い。学校や社会から溢れた奴らが小さなグループになってつるんだり悪さをしたりすることもある。そういう連中をまとめて池袋を中心に活動しているのが、Gボーイズだ。
Gボーイズのキング、それが彼の通り名になっている。


キングが足を止めたのは、店内でも一番奥にあるボックス席の前だった。
中央の黒皮の椅子に深々と座っている中年の男がゆっくりと顔を上げる。口元に浮かんだ笑みがまるで蛇が獲物を見つけた時のような雰囲気に似ていた。目が異様に鋭く、血走っている。四十後半から五十前半。それくらいの風体だ。人の首を簡単にへし折れそうなごつい手首には金の腕時計が覗いている。暗い照明の店内で背広から覗く白系のシャツが異様に明るく見えた。
その男を中心に両脇に2人ずつ無言のまま男たちが座っている。一見してその筋の人間だとわかる殺気だらけの獣のような感じだ。どこぞの猛獣の檻にでも放り込まれたような感覚だろう。

「この件を黙認してもらえれば、俺たちに異論はない」

挨拶の言葉など一言もなく、キングが口を開く。感情の感じられない背筋が寒くなるような声で、用件だけを告げると殺気ばかりを放っている獰猛な猛獣が、無礼にも取れるガキの頭に牙を向きかける。猛獣の飼い主はそれを楽しむかのように笑った。

「さすがはGボーイズのヘッド。キングと言われるだけはある」

地を這うような低い声。柔らかい物腰を装っているが、隠し持った本性が滲み出している。さすがは猛獣の飼い主だ。隙を見せればいつでも食らいつくだろう。
それでも眉一つ動かさずクールな王様は猛獣使いを見据えている。射抜いた目を反らすことはない。
楽しげに喉の奥を鳴らして、男は自らの膝に手をのせた。

「いいだろう。異論はないが……」

ふと、そこで言葉を止めた。何か思案するような顔を見せ、右から左に視線を動かす。部下の1人が音もなく立ち上がり、葉巻をスッと差し出した。男が咥えると別の1人が火をつけた。紫煙が薄暗い店内の天井へ音もなく立ち昇る。
そうして間を置いた後、唐突に男は口を開いた。

「この街に面白い男がいるらしいな」

「人間の数ならどこも同じだ」

話の意図がつかめずキングは抑揚のない声で返す。世間話をするほど暇ではないが、隙を見せるほどお人好しでもない。
男は片手に葉巻を持ち替えて、そうして口端を笑みの形に吊り上げた。何か気に障る笑みだ。

「ここに、マコトというトラブルシューターがいるそうだ」

「……」

ここ、とは池袋という意味だ。突然切り出されたマコトの名前に一瞬だけキングの空気が揺れる。それを悟られたかどうかは相手の態度だけではわからない。

「奴を噛ませれば、もっと楽にすむ話だろ?」

そんな挑発めいた声音に動揺したのはGボーイズのヘッドではなく、強面のツインタワーとその側近たちだった。ざわめくような無様な真似をするヤツはいなかったが、男の意図はこの場の全員が飲み込んだ。
マコトは確かにトラブルシューターだが、その分、白にも黒にも近い存在になってしまった。グレーゾーンのキングとも顔見知りだという話ももちろん、あの「池袋内戦」をどこにも組せず治めたという噂もある。
どこにも組せずというのは、背後に誰の影響も受けていないということだ。利用したいと思うヤツはごまんといるだろう。

「ヤツは何も知らん一般人だ」

淡々とキングの声音には変化はない。それでも男は底を見抜くように見据えている。

「それにしては、我々の間でもよく聞くが……」

「使えないやつではない」

そこでクールな王様は一息ついて間を取ると、

「だが、意図的に巻き込むつもりなら、池袋を敵に回すと思っておく方がいい」

その場が凍りつかんばかりの眼差しでキングは一瞥した。


そのまま踵を返し、来た時同様挨拶も無く通路を戻っていく。不逞の若造に減らず口を叩かれていきり立つ部下を男は片手を上げて静止した。

「面白れぇなぁ」と楽しげに呟く頭の言葉を彼らは初めて聞いた。









呟き*マコトは譲れませんよ、という話。例えキングとしてのビジネスでもね。