これが最後、なら





その年は暖冬で、桜が舞うのは入学式ではなく、卒業式だった。
通った高校はこの辺りでは不良校として有名で、卒業式に出た連中の数は、入学した時の半分程度になっている。それがあたり前の高校だった。
校庭に桜が舞うことを誰もが気に止めることなく、式を終え、お礼参りに気合いを入れた刺繍の入った長ランに着替えて他校へ向かう。
そんな奴らをマコトはは無言のまま2階の教室から見下ろしていた。

不意に風が窓から出て行く。誰かの気配と立て付けの悪い戸を開く音が聞こえたが、マコトは振り返らない。
何が映っているのかもわからないが、ただ黙って校庭の方を見ているだけだ。
靴音が近づいてくる。一定のリズムだから入ってきたのは一人だと振り返らずともわかった。

「マコト」

呼びかけた声は感情を感じさせないような冷えたもの。誰なのかすぐにわかったけれど、マコトは相変わらず振り向かない。声の主がかすかにため息を吐いた。

「そんなに寂しいか?」

揶揄する含みの声音にマコトはようやく顔を向けた。振り返り、タカシを一瞥する。その顔は予想に反して穏やかなものだ。

「別に」

言葉ほど声に強さはなかった。
卒業という別れを感慨に耽るほど執着していたとは思わない。それはタカシにしてもマコトにしても同じだろう。
だが、高校という一括りの時間が過ぎてしまった。それだけはまぎれもない事実。

「なら、どうした?」

心配する様子ではなく、マコトが引っかかる要因の方が気になるのかタカシは珍しく引き下がらない。マコトは横目でタカシを一瞥して、そうしてまた校庭へと目を向けた。桜が風に散る。遠目でもそれが見えた。

「終わりだと思っただけだ」

「終わり?」

「ココに来るのも、アイツらと喧嘩するのも、お前に会うのも。今日で最後だ」

そう思ったら、なんとなくいつもとは違う景色に見えた。

そうまるで独り言のように呟いて、マコトはまた口を閉じる。風が冷たくて目を細めた。感傷に浸るつもりなどない。それでも、この日を境に自分はここから離れる。それは事実。


「これで最後なら……」

タカシの冷えた声が耳元で響いた。不意の気配に驚いてマコトが顔を向ける。鼻先にタカシの顔があった。目が真直ぐとマコトを見据える。

「お前との決着つけないとな」

「タカシ?」

悪戯めいた笑みがタカシの口端に浮かぶのをマコトは見た。と、同時にタカシの左腕がマコトの首を捉える。首を締められる感覚にマコトは顔を顰めたが、タカシが本気で落とそうとしているのではないことはその力加減で感じ取れた。そもそもタカシが本気できたなら締め落とすことなんて他愛もない。
もう一度名を呼ぶ前に、マコトの後頭部にタカシの額が軽く触れた。前を向いている上、タカシの腕が首を捉えているため振り返ることはできない。タカシが何をしているのかわからなかったが、この腕を解かない以外別段動かなかった。

「なぁ、マコト。俺はお前を気に入ってる」

それを聞いてされるがままにしていたマコトが呆れたようにため息を吐いた。

「知ってる。だが俺にはお前と争う理由がない」

「ハッ、その決着じゃない」

息を吐き出すようにタカシが笑った。そんな笑い方は久しぶりのような気がしてマコトは無意識と振り返ろうとする。だが、相変わらず首に絡めた腕はびくともしない。こんな細い腕でと見た目には思うが、実際は絞り上げられたムダのない筋肉だけの腕だからだ。

「じゃあ、何のケリだよ」

諦め口調で尋ねたマコトに、タカシは珍しく押し黙った。いや、伝えるべき言葉に悩んだといった方がいい。タカシの状況がいまいち掴めないこの姿勢に苛立ちを感じながらマコトはなんとか振り返ろうと身を捻る。と、今度は驚くほど簡単に解けた。

「マコト。卒業くらいで最後にすると思うなよ」

不敵な面持ちでそう言い放ち、タカシはわざとらしく口角を吊り上げる。それを見てマコトは意味がわからないと首を傾げるしかなかった。







呟き*高校時代、捏造中。卒業シーズンだったんで。