| ゼッタイ、秘密 |
こんな時、あんただったらどうする? いつもなら事務文書に追われる一日のはずが、今日に限ってたいしたこともなく。それでいて必ず1件や2件は入るはずの上司からの呼び出しもなく、若いもんのいざこざも今日に限ってまったくなかった。 なんてついてるんだ、今日は。 そう思っていつもより早く帰ろうとして、ばったりと出くわしたのが 「おっ、サル。もう帰りか?」 池袋でも有名なマコトだったりする。 俺にとっては中学時代の同級生だけど、ここブクロじゃあいろんな意味で有名な男なんだ。頭が切れる割に、偉そうにすることもなく、俺にとっては気安く話しかけれるダチなんだけど、他の連中にとってはそれだけで留まらないというのもある。マコト自身に罪はないが、いらぬとばっちりを食らう可能性もあるわけだ。 「お、おう。そうだ」 「この後暇なら飲みに行こうぜ」 この間の件で飲み屋に連れて行ってやるっていっただろ、とマコトはニカッと白い歯を見せて笑った。そういえばそうだったな、と。今更ながらに思い出し、マコトの勢いにつられて近くの居酒屋に入った。 少しは出世したといっても、もともと貧乏性な俺には組長の接待も高級スナックもどちらかといえば苦手だ。肩が凝るし、酒の味も何もわからない。 たまには仕事を忘れて、わいわい話しながら飲める場に憧れたりする。 いつまで経っても、性分ってやつは治りそうに無いみたいだ。 「酒は普通でいいから、メシが美味い店がいいな」 「よし、じゃあ、こっちだ」 嬉々とした様子で歩き出したマコトの後ろをついて、俺は久々に気兼ねなく酒を飲んだ。 でてきた話は他愛もないもので、同級生が誰かが結婚したとか、ブクロで起こった珍事件とか、吉岡のこと。そんな話で時間だけが過ぎていった。 楽しい時間ってやつはどうしてあんなにも過ぎるのが早いんだろうな。不思議に思うよ。 さて、問題はここからだ。 いつもより酒の量が多かった俺も人のことは言えないが、閉店時間には2人ともすっかり出来上がっていた。千鳥足でマコトと肩を組んで歩いたような記憶は残ってる。とはいえ、マコトの方が俺よりも頭2つくらいは高いんで、本当に肩を組んでいたのかは知らないのが癪だ。 気付いたのは、翌朝。 携帯電話の賑やかな着信音で、ガンガン響く頭を抱えながら起きたとき、思った以上に毛布が重かった。面倒だから寝返りを打ちながら構わず半身を起こしたら、目の前にマコトが寝ていたんだ。 「な、何があったんだっ!?」 思わず上下衣類を確認してしまったが、そんなバカな話があるわけない。二日酔いに痛む頭を抱えて昨日の晩のことを思い出す。飲み歩いてハシゴして……そこまでしかまともな記憶は残ってない。見ればお互い昨日の服のままだし、2人して酔いつぶれた挙句、俺の部屋に転がり込んだだけの話。 それだけのはず……だ。 「んぁ?煩せぇよ、サル。頭に響く」 ガシガシと手荒に頭を掻きながらマコトが眠気眼で見上げてくる。それだけで俺の心拍数は跳ね上がりだ。 畜生、マコトはただのただのダチだ! そう思い込むのは簡単だ。実際、俺はなんにもしてねぇ。あたり前だが。 だが、記憶が途中から無い以上、どこで誰に目撃されているかわかったもんじゃない。 これが兄貴分に知られることすら恐ろしいのに、ブクロの王様や署長に知られてみろ、命が幾らあっても足りない気がする。 「マコト、このことは俺たちだけの秘密だ」 頼むぜ。やましいことがないのに、こんなことがブクロに知られたら俺の命の方がヤバイ。そういう本能的な危機感に俺はかなり切羽詰って頼むのに、マコトは寝ぼけてるのか、俺の毛布を全部引っぱって、二度寝をはじめた。 こんなとき、あんたならどうする? 呟き*サル好き。マコトとサル好きだけど、サルは大変だな、と。 |