| 木漏れ日の午後に |
排気ガスで溢れるこの街でも新緑が目に眩しい季節になってきた。気付けば桜も終わり、いよいよ初夏を目指して気温も加速する。 そんな中、花冷えのようないつもよりも少し低いこの空気が今は気分にあっていた。 いつもの午後、いつもの池袋西口公園。 ベンチに背中を預け、ビル郡に囲まれた空を見上げた。凸凹に切り取られた青い空が白い雲を伴って映っている。 街路樹が排ガスまみれの黒い枝を伸ばし、なんとか新たな葉をつけている。それがうまいこと強い日差しを遮って、そうしてキラキラと光っていた。 手を伸ばした。 何かを触ろうとしていたわけじゃない。 何かを掴もうとしていたわけでもない。 ただ、不思議と木漏れ日から降り注ぐ光の欠片が目の前をちらつくから。 手を伸ばしてみたくなる。 「何があるわけでもないのに、な」 呟いて手の平を見た。自分の手の輪郭が逆光で光っているみたいで、なんだか面白かった。 近くで車のクラックションが鳴る。サラリーマンの靴音が、OLのヒール音が雨音みたいに響いてる。携帯電話の着唄と話声が低いも高いも入り混じる。 いつもの日常がここにいるのに、不意に違う風景が横切るようでベンチに深くもたれたまま空を見上げていた。 差し込む木漏れ日が心地よかった。 アスファルトのムッとした生温い空気が、冷たいビル風と混じる。葉を揺らし、そうして流れていく。 一つ、ゆっくりと息を吸い込んだ。 そうして、もう一度手を伸ばす。 こんな暇なことをしているのはきっと俺ぐらいだけど、降り注ぐ光の欠片が一つでも掴めたらいい。そんな気分にさせる平和な光が心地よかった。 「捕まえた」 いきなり手首を捕まれて、俺はギョッとして顔を向ける。ベンチの背もたれ側から口元を笑みの形に吊り上げたタカシの顔を見つけて更に目を瞬かせる。 「驚かせるなよ、タカシ」 声を荒げてみせたがタカシは肩を竦ませただけだった。 もともと気配を感じさせないヤツなんだが、こうして突然現れると誰だって驚く。それを見てどこか楽しんでいるように思えるのは、俺の気のせいじゃない。 「なに暇なことしてるんだ?お前」 ニヤニヤと笑うタカシの様子を察するに、俺がせっかくの平穏をささやかに楽しんでいた様を見られていたようだ。楽しみ方は人それぞれ自由なのだから、放って置いてくれ、といいたい。 そんな気持ちでタカシを見上げたが静かな周りを見回して他には誰もいないことを悟る。 「お前こそ……いつ暇になったんだよ」 「たった今」 淡々と告げる口調に首を傾げる。そんなに簡単に暇になるなら苦労はしないはずだが、タカシは時折こうして唐突に現れたりすることがあった。 訝しげに眉を寄せて、未だに手首を握られたままだと知る。タカシの手は少し冷たかった。 「手、離せよ」 そう言うとタカシは心外な、と言いだけな顔をしたが、掴んだ腕を放そうとはしない。むしろ、手を掴んだまま俺の前までベンチを回ると不意に引っ張りあげた。思わず反動で立ち上がる。 「暇なんだろう?付き合え」 タカシが俺の耳元でわざとらしく囁く。その声がどこか笑っているようで、俺は肩を落としながら憮然とした。足元にはチラチラと輝く光。そうして葉の影と零れた光が穏やかな午後の空気を演出している。 「しかたねぇな」 木漏れ日から降り注いだ光を浴びながら、俺はゆっくりと背伸びをした。 呟き*なんだろう。バカップル? |