音の無い夢





そこは静かだった。何の音も聞こえない。何も響かない。ただの無声映画のようだった。
手を伸ばそうとして、掴めずに空を切った所で目が覚めた。

静かな空間が広がっている。窓からカーテン越しに光が差し込み、いつもの自室に独り。デジタル時計の表示がいつも起きる時間よりも早い。盛大にため息を吐いてから、手荒に頭を掻く。どうも夢見が良くない。決して迷信を信じるつもりはないのだが、それが明け方なら尚更。
振り払うようにベッドから降りて、いつもより熱めのシャワーを浴びた。


夢を見るのは久しぶりだ。
とはいえ、あまり覚えていないので、実際はもっと見ているのかもしれないが、今日の夢はあまりにも静かで、話す声さえ聴こえないから、余計に不安になる。

「最後になんて言ったんだろうな」

夢に尋ねてから、タカシは自嘲した。



そろそろ一条からの電話がかかってくる仕事の時間だ。枕もとの携帯を手にとった瞬間、ディスプレイに着信の文字。そうしてバイブレータにしていたから不気味に揺れた。


『……あー、寝てたか?』

マコトだった。てっきり一条だと思い込んでいたから、思わず閉口する。出だしに間が開いたのは、あまりにも早いタイミングで出たからだろう。

「……いや」

『そうか。早起きだな』

会話に意図が感じられず憮然としたが、電話から聴こえる声と奇妙に開いた間が不安をあおる。

「何かあったのか?」

尋ねながら頭を捻る。昨日の段階でマコトが関わっていたヤバソウなヤマはないはずだが、早朝にも関わらず電話をかけてくるというのはよほどのことか。今朝の夢のことを気にするわけではないが、胸の辺りが落ち着かない。

『あー、いや……別に何があったってわけじゃないんだけど』

珍しく歯切れが悪い。不審に思ったが、ドアをノックする音に時計を見上げた。電話が話中だったから、直接一条が上がってきたのだろう。椅子の背にかけたままのジャケットをとる。

「用がないなら、切るぞ」

そう言うと、またしばらく間が開いた。息を飲むような音がしたから、また迷ったのだろう。



『タカシ。……お前、泣いてないなよ?』

迷った挙句のマコトからの突拍子もない言葉。だが、それはあまりにも今朝見た音の無い夢に近くて、返す言葉を失う。見た夢では、泣いていたのはマコトの方だったが。

「お前こそ、泣いていないんだろうな、マコト」

確かめるように受話器に耳を寄せる。マコトの後ろは賑やかだ。外でかけているに違いない。

『ああ、泣いてない』

はっきりした口調の中に安心したような響きを感じて、なぜかこちらまでホッとした。
マコトがなぜそんなことを聞いていたのかわからない。だが、それを確かめるためだけに電話をかけてきたのだろう。まとまりもつかないまま、不安だけが過ぎった。それはこちらとて同じことだが。

「なら、いい」

鼻で笑ってそういうと、受話器越しにマコトが笑ったのがわかった。伝わる雰囲気にお互いが自然と笑いが零れる。他にはなにも言わず、再会を約束して電話を切った。

ドアから再びノックが聴こえてくる。仕事に出るべく、どこか晴れやかな気分で部屋を出た。




夢オチ?違うな。