背中合わせの幸福





「重いって」

そうマコトはもう何度目かの抗議をあげた。
あえて聞かない振りをしたままマコトの背にもたれかかっているタカシは空を見上げている。青い空に白い雲が疎らに散らばっていて、みんな別々の方向に流れていくのが面白かった。

「タカシ」

少し咎めるような口調にタカシは視線だけ向けた。目が合うと、マコトは眉を寄せている。

「重いんだよ、お前」

思いっきり体重かけるな、と声にすればタカシは少しだけ背を引いた。
マコトは雑誌の記事の締め切りが間近でそれに没頭していたが、タカシは何をするわけでもなく背中を預けてぼんやりとしている。暇な時間だとは思わない。マコトが忙しくてかまってくれないのは確かに退屈なのだが、傍で真剣に辞書とモニター画面を往復させて記事を書こうとしている横顔を見ているのは面白かった。日ごろはそうそう見せない顔だ。
その視線に気付いたのか、マコトはふと手を止めて後ろを仰ぎ見る。目があって、なぜかバツが悪そうな顔をした。

「なんだよ?ジロジロ人の顔みて」

「気にするな」

「気にするなって言われても、気になるんですけど」

「俺が勝手に見てるだけだが?」

別にお前の邪魔をしているつもりはない、と挑発めいた笑みを口元に浮かべる。からかわれているのはわかってるからマコトはため息をついた。

「子どもか、お前は」

「だから気にするなといっているだろ」

心外な、といいたげにタカシは肩を竦めた。その仕草がいかにも子ども地味ていてマコトは内心笑った。背中から振動が伝わったのか、タカシが身じろぎする。

「だから、重いんだって」

笑った仕返しか再び背中にかかる負荷が強くなってマコトが抗議する。タカシが鼻で笑った。
退屈だと口にしなくても、タカシを待たせっぱなしなのは悪いと思っている。思っているが、なかなか自分の思う言葉にならないのも事実だ。仕事だから、というつもりはないが、納得も出来ないことを出来たことにはしたくない。それはマコトの性分だ。
タカシもそれがわかっているから言わない。言わないが手持ち無沙汰なこの状況を打開できるのもマコトしかいない。だから仕事の顔を見ていた。それだけのことだが、照れ屋なマコトには視線一つすら気になるようだ。
半ば諦めたようにマコトは肩を落とした。そうして肩越しにタカシへと目を向ける。

「あとで遊んでやるから」

だから、もう少し待ってろ、と。
まるで幼子をあやすように声音にタカシは一瞬目を丸くした。だが幸いにもこの状態ではマコトに見られることはなかった。見られればきっと笑ってしまうほど素で驚いていただろうから。


「その言葉、忘れるなよ」

少しだけ身を引いたものの相変わらず背中をマコトに預けたまま、タカシは嬉しそうに言った。







バカップル?