風の便りに聞いたキミ





「懐かしいな」

感慨深い様子で礼一郎は懐かしい街並みを見回した。前に見たときよりも街並みは変わってしまっている。派手なネオン甲板が夜を待っている。路地にはいたるところにゴミが投げ捨てられ、近所の住民がゴミ拾いに追われている。

「少し寂れたか」

商店街もどこか寂しい様子を漂わせるのは降りたシャッターだけではない、人の気配が少ないからだ。それでも懐かしさに目を細めるのは、見慣れた果物屋の看板。昔より少しだけ小さく見えて、そして古びたように感じるのは時の流れというところだろう。

池袋署の署長となってまさか再びここに戻ってくることになろうとは、正直考えもしなかった。運良く東大を卒業し、興味に引かれて警察官になった。キャリア組みになったのは自分のやりたいことをしたかったからだが、まさかこんなにも早くココに帰ってくるとは礼一郎自身驚くしかない。

そしてここに帰ってきたら一番に確かめたいことがあった。

――― 池袋にはマコトという名のトラブルシューターがいる。

池袋の署長になると決まった時、そういう噂を聞いていたのだ。
礼一郎とすれば、噂の『マコト』が昔よく遊んでいた『誠』と同じ人物かどうかが気になった。今もまだ池袋にいるのかどうかも定かではないのだが、礼一郎にはなんとなく勘というヤツで池袋きってのトラブルシューターがあのマコトなんじゃないか、と思っていた。実際、会って見たくなるのは当然のこと。

「ただ覚えているかな、マコトのやつ」

彼と遊んだのはもう随分と昔の話だ。自分はある程度の年齢だったけれど、マコトはまだ幼かったといってもいいくらいの年だ。あれから何の音沙汰もなかったのだから、忘れられていてもおかしくない。それが少しだけここに来ることを躊躇わせる原因だった。

「面と向かって、『あんただれ?』とか言われたら……」

ショックで立ち直れないかもしれない。素直にそんな弱音を吐ける。それほどのダメージだ。自分らしからぬと思ってもなぜか礼一郎は強気ではいられなかった。

目の前に真島果物店の看板を見上げること十数分。シャッターは開けられているのに人影がない。ここの女主人の性格もよくよく知っていた。客が声をかけるまでは奥でテレビでも見ているのだろう。そういうところが面白いと思える。並んだ果物はどれも高価な物ばかりで良い値段が手書でかかれている。それも昔と変わっていなくて礼一郎はそっと笑った。
と、建物の2階から何かが落ちてくるような音がして礼一郎の意識を現実に引き戻した。
地響きを立てながら2階から人が降りてくる。奥から女主人の「静かに下りろ」という声が店先まで聞こえた。

トンッと軽い調子に店先に降り立った青年がゆっくりと顔を上げる。少し驚いたような顔で礼一郎を見て、昔と変わらない真直ぐな瞳と目があった。
再会したらいろいろと話そうと思っていた言葉がすべて頭の中から吹き飛んで、礼一郎は青年を見下ろしたまま少しも動けずにいる。幼い頃の面影を残した青年は、やがて唖然とするように口を開けた。

「も、もしかして……礼にぃ!?」

目を見開いて驚くその顔に今更「マコトか?」などと尋ねる必要はなく、礼一郎はあまりにも変わっていないマコトを見下ろして、にこやかな笑顔を浮かべる。風の便りと少しも違ってはいない様子が嬉しかった。

「久しぶりだな、マコト」

彼の声はどこか嬉しそうだったけれど、マコトはそれに気付かず目を瞬かせるしかできなかった。








礼にぃとマコトで。礼にぃはマコトの保護者的存在だと思うのですよ。