| 寝顔の微笑み |
外界を一望できる校舎の屋上を涼しげな風が音もなく吹き抜けていく。日陰になる階段脇の壁に背を預け、なにをするでもなくぼんやりと空を見上げていた。午後の授業は始って久しい。だが、今更というよりもこんないい日よりに授業を受けるなど勿体無いだけと出る気などなかった。 それもあるだろうが、とタカシは視線をヨコへと向ける。 その先にはいつのまにか眠ってしまったマコトが寝息も立てずに寝転がっていた。 昼飯を屋上で食べ、くだらない話題で幾分盛り上がったが、もともと無口ではないものの多弁でもない2人だ。やがて言葉もなくなり、黙って空を見上げていた。 流れる雲が多様に変化する様を見ているのも面白い。そうマコトが呟いてから言葉がなくなったのだが、気づけば陽気にも誘われたのだろう寝入っている。 タカシは黙ってマコトの寝顔を見ていた。 言葉などそこには必要なく、静けさに包まれたこの屋上はまるで別世界のように現実から隔離されたような感覚だ。時折遠くから教師の怒鳴り声が聴こえる程度。周囲を通る車のクラクションもどこか遠い。 マコトといる時のこの空間がタカシにはひどく安堵感を誘うものなのだと気付いたのは、一体いつのことだろうか。 そんなことが脳裏を過ぎったが、タカシは深く考えようとはしなかった。出会いなど今更考えても仕方のないことだ。こうしているのだから、過去のことはどうでもいい。それがタカシの結論に至ったからだろう。 不意に大の字で寝ていたマコトがタカシのいる方へ寝返りを打った。その顔を見てしまい、タカシはそこから目が離せなくなった。 (……笑ってる) マコトのその寝顔がまるで笑っているように見え、タカシは呆れたように息を吐いた。 まるで無防備に幸せそうに笑って眠るマコト。こんな顔をどこでも誰でも振りまかれたら、見ているほうはたまったものではない。一体どんな夢を見ているのか、思わず嫉妬にも似た感情に狩られかけて、タカシは自嘲するしかなかった。 マコトといると安心する。それを口に出して本人に教えるつもりはない。そんな言葉で縛り付けたくもないし、その程度で捕えるつもりもない。 だから何も言わずにここにいるのだが、タカシは何か悪戯を思いついたように顔で寝ているマコトの顔を覗き込んだ。鼻先が触れるほどの距離に顔を寄せるけれどマコトが起きる様子はない。 「隙がありすぎなんだよ、マコト」 無意識に口端を吊り上げて、タカシはマコトの鼻をひょいと摘んだ。 タカシ→マコトで。高校時代捏造中。 |