夜の気配を引き連れて





夜の気配がする。ネオンに包まれた喧騒の街に、ガキたちの王様が姿を現す。
日が落ちると一変するこの西口公園に、夜の気配を連れてくる。暗闇に対する恐怖を人間誰もが持っている。ならば、この街の闇の部分を持っている王様にガキたちが惹かれるのは、恐怖よりも探究心か、それとも好奇心か。

「あ?今日は集会か」

いつも以上に賑やかな公園内を見回して、マコトはそっと肩を竦めた。
こうして決まったように始るGボーイズの集会にマコトが顔を出すことはあまりなかった。
もともと集団というものが好きではなく、顔を出したら出したで賑やかなガキに囲まれるのが単に面倒なのだ。自分がそうであったのは随分前の話。年を食うと人間は丸くなるというが、マコトにしてみれば騒ぐのに飽きただけだろう。
無茶なことを知らずにやるのと、わかってやるのとではリスクが違う。それを考えながら動けるようになれば、ガキの時のような無謀なことはするけれど無茶はしない。
だから、無茶ばかりを好んでしようとする連中を相手にするのはマコトにとって面倒以外の何者でもなかった。自分が関わらずとも、適任はいるわけで。

不意に声が高まる。ある方向に向けられて発せられるガキたちの声にマコトはその先に有る者を知る。王様の登場だと、誰かが言った。

Gボーイズのキング。誰もが尊敬と憧憬とそれと同じくらいの恐怖を持っているのは、安藤崇というマコトの高校時代の同級生だ。卒業したあと、いつのまにかこんなガキたちをまとめたチームを作っていた。

そのキングがつかつかと歩いてくる。
歩けば、モーゼの十戒のごとく人の波が二つに割れていくのが目に入る。実際みるとマコトは驚きと一緒に呆れてしまった。まるでどこぞのアイドルか、と。

「久しぶりだなぁ、マコト」

声は相変わらず冷たかったが、顔はどこか笑っているように見えた。確かに久しぶりにあうな、とマコトは思った。
ちょっと前に合った負け犬テルの時以来だ。あの時は態よく奇妙な事件に巻き込まれ、面倒だと思ったので結局は乗り込んでいったり、腕を無くしかけたり、と無茶なことばかりやった気がする。本当の負け犬になるための戦いで、テルはキイチの仇を取り、田舎へと帰っていった。

(そういえば、本当にりんご送ってきたな)

テルから一度手紙と一緒にりんごが3箱送られたきて、正直マコトは困った記憶がある。

マコトの前まで歩いてくるとタカシは、Gボーイズのキングは歩みを止めて、マコトを見る。そうして口端を笑みの形に歪めた。

「あれから、どうだ?」

「あ?何が」

「退屈、してるんじゃないか?」

まるで挑発しているような口調だな、とマコトは思った。


テルの事件の後、タカシはふらりと姿を見せた。そうしてマコトに誘いをかけた。平穏な日常よりもスリリングな毎日が送れる世界がある。お前にはこっちの方が似合うだろう、と。
今の日常は確かに平穏だった。あの後、というよりも前からトラブルの方からやってきていたが、それが毎日ではないし、マコトも退屈しのぎ程度の認識しかなかったからだ。タカシのいる世界を知りたいとも、知ろうとも今のマコトは思わない。相手がそれを良しと思うかは別だが。

「悪いが、まだ忙しい」

「そうか。それは何よりだ」

あっさりとタカシは鼻で笑う。マコトは少しだけ首を傾げた。まるでわかっていた返事をわざわざ尋ねた、という風だ。不思議に思う様を見て気付きながらタカシは不意にマコトとの距離を詰める。伸ばした腕がマコトの首に回り、引き寄せるようにその耳元に顔を近づけた。

「いつでもこっちに来いよ、マコト。お前が来れば退屈しなくてすむ」

「誰が?」

「俺だよ。お前が来ないと、俺が退屈だ」

飄々と告げられる言葉にマコトは唖然としながら顔を向けた。タカシの目と目が合う。口元に覗く笑みとは裏腹に、タカシの目は笑っていなかった。

「……気が向いたらな」

いつのなるかはわからないけどな、と曖昧にマコトは口を開いた。つまりは、今は気が向かない、ということだ。

「そうか、そいつは楽しみだ」

本当に楽しげにタカシはマコトの鼻先で笑った。
夜の気配を引き連れて現れたキングは、そう言って笑うと踵を返してガキたちの方へと返っていく。
暗闇の中でタカシのいる場所だけが、煌煌と照らされているかのようだ。火に飛び込む虫のように、幾人もが騒ぎながら追っていく。

その様を見送って、マコトは自分の足元を見た。
この一線を越えたならきっとタカシのいる世界なのだろう。そこに恐怖は感じない。ただ、以前タカシが言ったようにそこに平穏はないのだろう。
そう思うと面倒臭くて足を踏み出す気になれず、代わりにマコトはもう一度ため息を吐いた。









漫画版のラストよりちょっと後みたいな。