てのひらの温度は






握り締めた手のひらは、いつもより熱かった。



「俺がそこに行く」

マコトがそう告げた時、知らず知らずのうちに握り締めたコブシがあった。

クールな王様、と呼ばれたタカシが一瞬にして熱くなる。その要因にいつもマコトが絡んでいることを本人は自覚しているだろうか。

全然関わりのないガキのためにマコトが黒に近い領域で蠢いている連中を相手になんとかしようというのはいつものことだ。タカシであっても、他の誰であっても、マコトが動き始めればそれを止める術はない。止める立場でもなければ、道理もない。決めたことを覆すような性分でもない。
動き出したら最後、マコトという男は己の思うままに突き進むだけだ。

それがどんなに恐ろしいことなのか、マコトは本人は気づいていないだろう。





「たいしたことはないな。背広姿のガードマンが数名立っていただけだ」

マコトと打ち合わせていた店の店内は異様な空気に包まれていた。足元すら危うい暗さ、照明はすべてステージへと向けられている。「左腕」にとまったままのルーレットと、反射して輝く西洋装飾の斧。そして、上半身を晒したまま周囲をにらみつけるマコト。

踏み込んだ瞬間、胸の内がカッと燃えた。
肌は刺すように冷え込んでいくのに、思考も凍るほど冷えているのに、腹の底が燃える。ぞっとするような背筋の感覚が、恐怖から来るものではなく、興奮からくるものだとタカシは冷静に判断する。
第三者的な立場からマコトを見たとき、この場すべての人間を飲み込むマコトの存在力を強く感じる瞬間がある。眠れる獅子が目を覚ますように、一瞬にしてその場を制する空気をマコトが作り出す。

(‥‥あの顔だ)

ステージから周囲を見据える眼を見てタカシはひそかに笑んだ。
本人は意識すらしていない。無意識に引き起こす領域をタカシは面白いと感じた。

マコトという男は池袋という白と黒と灰色が絶妙に入り混じっている空間にどの色でも目立たず存在していられる。普通なら必ずどれかに違和感を覚えるはずが、どの色の領域でもマコトは普通に存在しているのだ。相手が一般市民でも、組関係でも変わらない。
そういう存在感を持つ人間をタカシはマコトしか知らない。無論、タカシ自身、この三色の中で違和感を覚える色はある。Gボーイズのキングだからではなく、存在する領域が違うからだ。
マコトはすべての色に適応し、どの領域でも存在感を発揮する。
まぶしいほど光るその存在が、見る者を惹きつけるのだ。

「‥‥欲しいな」

ステージの上ではマコトが斧を寸前で止めた。ガキたちから、観衆から歓喜の声が地鳴りのように響く。その中で、タカシは静かにステージを眺めながら呟いた。自分の立つ領域に、マコトという存在が欲しいと思う。
それは正直な感情で、少しも利益など考えてはいない。マコトの存在が良くも悪くも作用するだろう。本当ならばそのメリット・デメリットを判断して最終的に動くか動かざるかを決めるのがキングなのだろう。
だが、こういうマコトを見ると、いつでもひきこみたいという衝動がタカシを包む。リスクを伴うことも厭わない。駆け引きなしで「面白い」と思えるから、タカシはマコトにかかわる。

マコトはタカシのこういう思惑を感じているだろう。それでも本能的ともいえる部分で、タカシが住む領域に警戒心を抱いている。だからこそ、踏み込まない。
熱くなる瞬間に引き込まれそうになるけれど、マコトの現実はあくまでも今の日常でしかないからだ。タカシの領域に踏み込めば、今見えているものも見えなくなる。
だからこそ、マコトは首を縦には振らない。


「面白い」

呟いてタカシはステージから降りてくるマコトの方へと歩みよる。クールなキングが通るたけで周囲が二つに割れ、モーゼの十戒のように道が開く。支配する空気が一瞬にして氷点下まで下がるような感覚。
颯爽と歩きながら、つい握り締めた手のひらだけが熱くなっているのをタカシは自覚していた。








漫画傾向。タカシ→マコトで。