のこったものはいつか






風に流されて消えていくのだろうか。
それとも、留まり花を咲かせるのだろうか。

コンクリートに覆われた無機質な大地から消えていったものは、どこか人の目につかないところでひっそりと咲き誇っているのだろうか。

クラクションにエンジン音、雑踏からこぼれるテレビやラジオの音、交差点を行きかう人々の靴音、話声、携帯電話の着歌、ありとあらゆる音が、色彩が、物質が、眼下に収まりきらない圧倒的な量とともに迫ってくる。
息が詰まるような圧迫感に時には面くらい、戸惑い、悩み、そうして絞り出した答えを吐き出したところでこの街はなんら代り映えのしない情景を映している。
今までもこれからも。

でもそれが、本当に何も変わらないわけではない。
それはわかっている。
あまりにも急激な変化ゆえに、誰にも気づかれずに街は変貌を遂げている。

「少なくとも、俺が生まれた時にはこんな耳障りで便利な携帯電話なんかなかったからな」

自嘲しながらポケットから賑やかな音を立てる携帯電話を引っ張り出す。
ディスプレイを見るまでもない。こんな時間にろくでもない電話をかけてくるのは、とうていろくでもないやつだけだ。

「おう、王様。今日はどういったご用件で?」

わざと厭味を加えて口を開けば、電話の向こうの空気が凍りつくのがわかる。クールな王様にはちょっとした冗談の一つも命懸けだ。

『今日も無駄口叩くほど暇なのか?』

「煩い。ビックなお世話だ」

間髪入れずに返したのが面白かったのか、池袋の王様は鼻にかかるような声を漏らして笑った。王様が声をあげて笑うなどとその周辺にいた連中のギョッとする顔が浮かぶ。ついついこっちまで笑えた。

『今夜23時。いつものところにこい』

「厄介事はごめんだぜ?」

さらりと告げるとまた一つ電話の向こうで笑う声。だが、すぐに空気が凛と冷え込む。

『面倒じゃないものなんかこの街にはない……そうだろう?』

凍るような声なのにどこか沸き立つような熱を感じて、俺は軽く賛同の意を返してから電話を切った。

関心や興味を持てば持つほどますますクールになってくる池袋の王様。決して短い付き合いではないのだが、ヤツの秘密はまだまだ謎のままだ。
少なくとも俺より女性に大人気なのは見てわかる。どこに行っても、何を着ててもだ。またその年齢まで問わないっていうのが気に入らない。俺はどっちかというと同じくらいの年齢層から外されてる気がする。

「野郎から好かれるよりはマシか…」

負け惜しみをわかっていて吐き出すのもなんとなくわびしい。

見まわす圧巻のビル高層群と雑多な街並み。
このごちゃごちゃと清も濁もまとめて飲み込んでいるような街並みは決して嫌いではない。

春めいた風を受けながら俺はそう思った。






呟き:いつもの2人。