オンリー ロンリー グローリー








最初、彼を見たときは、なんて無茶苦茶なヤツだろうと思った。
組織の身を置く者としての行動ではなく、私的なとも思える無鉄砲な言動にため息をつきたくなるほど呆れた。警視庁の捜査官にも真っ向からぶつかって行く、そのさまに唖然とさせられた。

それが、いつからだったろう。

気付けば彼の背中を目で追うようになっていたのは。
モスグリーンのコートを知らず知らずのうちに探していたのは。


「本店とか所轄とか、そんなものが被害者に何の関係があるんっスか?」

――― 警察官でしょ?俺達は。

そう言って真直ぐに見据える瞳がまぶしく思えた。



キミが思っているほど、警察というものは正義の味方ではない。

そう何度も口にして、その度に彼はイヤというほど痛感するのに、それでも挫けずに立ち向かっていく。犯人に、そして身内である警視庁に。

一体どちらが本当なのだろう。

彼を見るたびに自分の中にあった揺るぎのない『正義』が、脆く浅はかな張子の虎であることを知る。知りたくもないことを見せ付けられる。態度では批判し、彼の行動を咎めてきたけれど、本当は自分でも気付いている。

彼の行動こそ本当は自分がやりたかったことなんだ、と。

だからこそ、私は彼に惹かれたのかもしれない。









「なーに、にやにやしてるんスか?室井さん」

不意に声をかけられて顔を上げる。
己の思考に囚われすぎていて気配も何も気付かなかったのは不覚だが、見上げた先に見慣れたモスグリーンのコートが映るとなぜか内心ホッとした。

「……キミは本当に神出鬼没だな」

厭味ではなかったが、彼はそう取ったのだろう白い歯を見せて苦笑った。
こんなところでなにを、とは言わない。所轄というものがどれほど多忙なのかは知っているつもりだ。無論こちらとしてもいくつか持っている捜査本部へと綱渡りにも近いものだから忙しくないといえば嘘になるが。

「よく言われます。あ、眉間に皺、寄ってますよ」

そう言って自分の眉間を指差す。その仕草があまりにも彼らしくて私は呆れ半分、ため息を零した。
にこやかに笑う彼の顔をもう何度も見てきたはずなのに、それでも見るたびに安堵感を覚えるのは何故なんだろうか。

と、彼の持っている携帯電話がなにかしらのメロディを上げて鳴った。「あっ」と声をあげてバツが悪そうに携帯にを探している。話の内容を聞くのも気が引けて、踵を返そうとした時、不意に肩を掴まれた。

「室井さん。今度、夕食でも一緒に食べませんか?」

唐突すぎる話に半ば呆然としていると、慌てた様子で彼は手を離した。

「でもまぁ、俺の安月給じゃあ、たかがしれてますけど……」

居酒屋とか屋台くらいですけどね、と曖昧に笑う。
それがいつもは飄々とした印象しかなかった彼から別の一面をみたような気がして面白かった。


だからだろうな、あんなことを約束したのは。



「ならば、私が連れて行こう」


「え?」

私の言葉に、彼は目を丸くして本当に驚いた顔を見せた。それが彼の素の顔なのかもしれない。そう思わせるには充分だった。

「キミには教えられることも多いからな」

そう言って、唖然とする彼を見上げた。



いつか心から本当に感謝の言葉を伝えられる日が来るだろうか。

その日が来るまで、共に己の信じた正義を貫き通すことができるだろうか。

その不安や迷いはいつでもそばにある。だが、彼を見ていると、まだまだ足りていないと思うのだ。己の決めた道を我武者羅に走るという覚悟が。

その思いを、いつか伝えられればいい、と胸のうちで呟いた。








呟き*タイトルは言わずとしれた。個人的に「室青」ですが、リバでもいい。この2人大好きだ。