違わぬ道の先を








「隊長、準備完了しました」

後方から凛と響く声がかけられた。加山は振り向かず、眼下の一点を見据えている。
地上には無数の異形な物がその姿を晒している。そして、対峙するように遥か前方へ白い機体が佇んでいた。
帝國華檄団、人ならざるもの、人にあだ名すものたちから人々の暮らしを守るために組織された秘密部隊である。霊力という、常人には見えない力を持った者たちだけが、あの機体を手足のように動かすことができる。それはかつて資料で読んだ事実だ。

「隊長?」

返事のない加山を訝しげに見る。その視線の先を知らず知らずのうちに追って白い機体を目にした。

「アレが、花組……」

表の花組とは違い、月組は隠密諜報が任務だ。こうして現場で実際に顔を合わせる機会は少ない。ましてやその戦い振りを間近で見ることは今まで皆無だった。

「見ておけ、あれが大神一郎という男だ」

どこか自慢げな声音に隊員は驚いたように加山を見た。
沈着冷静、前任のあとを継いで月組の隊長となった加山は他の隊員よりもずいぶん年下だった。そのことで最初はもめもしたが、その手腕は口を出す隙もないほどに見事なものだった。
加山は実力で示し、隊員はそれを認め従う。
月組という組織はその特性上感情をはさまない場合が多いのだが、加山がそうやって一個人を認めることは隊員にとっては初めてのことだった。

「隊長とは同期の方であると、伺っておりますが」

大神一郎の名は花組隊長というだけでなく、月組の隊員ならば誰でも知っている。いや、帝國華檄団を知る者に大神の名を知らぬ者はいない。
海軍士官学校を首席で卒業したものの、その霊力の強さを請われ異例ともいえべき海軍から陸軍配属の部隊へと身を投じることとなった人物。だか、花組の女性たちとともにある姿からは屈強さなど想像もつかないほど穏やかで落ち着いた感がある。

「俺などとは……比べものにはならんよ」

そう薄く笑った加山の面持ちはどこか遠くを見ているようで、配下の者も口を閉ざすしかなかった。

やがて戦闘が始まり、地響きを伴う破砕音が轟く。大神の指示で右に左に動く機体のそれぞれはまるで緻密に計算されたように異形の者達からの攻撃を避け、逆に的確なダメージを与えている。それをたった一人の指揮官によって導き出されているというのは見ている側からすれば賞賛と共に脅威すら覚えた。

「さすがは、大神」

思わずといった感で加山の口から零れた。

大神一郎と加山雄一は互いに競い合い、海軍士官学校創設以来の逸材と言われていた。
そして今もまた所属も場所も状況も異なるが、大神と加山は同じところを見ている。

若き隊長の下で活動している彼らにはそれを直接知る機会となった。








呟き*月花、なのかな。