背中














オーディンの言葉が彼女の根底を突き崩した。

闘うことの意味さえも、偽りであったなら、自分が何のために闘うのか、その理由すら風に消えた。

「私は一体何のために……」

迷いは冷静な判断すらもゆるがせる。レナスの背に忍び寄った闇の刃は、死の咆哮と共に振り下ろされた。

「ヴァルキリーっ!!!!」

ハッと顔を上げたが、すでに遅い。受け取めることはもちろん、逃れることもできずただ立ち尽くす。死と一番近い存在であった自分が、今まさに己の【死】と直面するかに思われた。
だれかが彼女の名を呼んだ。それがだれなのかわからない。考えるだけの余裕が今のレナスかに欠乏していた。

 ガキィィ

耳障りな金属音が周囲へと反響する。振り下ろされた死神の刃が、死して尚、活きている人間によって防がれる。唖然とした彼女の視線の先で、男は唇を吊り上げて笑った。

「ぐっ……戦いのさなか、気を抜く奴があるかよ」

とっさに庇ったせいで、防ぎきれなかった衝撃が彼の額に浅い疵を残す。音もなく伝う紅い雫が鮮明に映る。

「ア……アリューゼ」

果敢で優秀な戦乙女としてのレナスではない。動揺に声が震える。
そんな彼女を見下ろしながら、アリューゼは傲慢に不遜に口端を笑みの形にゆがめた。

「何を迷う、ヴァルキリーさんよ」

「……アリューゼ」

刃を斬り返し敵の胴を真一文字に切り裂いてアリューゼは無造作に額から流れる血を拭う。迷いの色が消えないレナスに向ける面持ちはどこかしら優しげな雰囲気を漂わせている。

「いいか?これだけは覚えといてくれ。この先、どんなことがあってもオレはお前に命を預ける」

「……私に?」

「そうさ。お前に助けられた、初めて会った時からオレの心積もりは変わらねぇ!!……だから少しは自信を持ちやがれ」

ニヤリ……と笑い、アリューゼは身の丈ほどある長剣を構えた。空いた手でポンッとレナスの頭を撫で、いつもの不敵な表情へと変わる。

「さぁ、手加減しなくていいんだろ?レナス・ヴァルキリー」

咆哮にも似た声を張り上げ、アリューゼは敵へと向き直る。レナスにその背を向け、【護る】ために闘うのが彼の今の姿。


その逞しい背中は、レナスにとても広く、そして頼もしく見えた。












この二人大好きなものでvvアリューゼの戦闘時のセリフには毎回ドキドキさせられっぱなしでした。アリュレナ、万歳。