一言だけ














一言だけ伝える言葉があるとすれば、それはきっと感謝の言葉だ。
俺が死して尚、戦乙女と共に戦う生を得たことに一遍の後悔もしていない。人間として生きてきたわずかに時間の中で、あれほど多くの後悔をしてきたというのに、だ。

「惚れた、ってのとは違うけどな」

そうアリューゼは独りぼやいた。どこか苦笑めいた笑みが沸く。

戦乙女、レナス・ヴァルキリーの姿を見た瞬間、アリューゼは長い銀色の髪に目を奪われた。不死者と対峙しても眉一つ動かさないあの横顔。微塵の躊躇もなく振るう剣。その姿に心惹かれた自分がいた。

「アリューゼ?」

先を歩く戦乙女が振り返る。流れる銀髪が音もなく揺れ、陽光に照らされて輝く。眩しいとすら思うのだ、死を司る者でありながら。死神と畏怖の念を持って呼ばれることもあるが、それでもアリューゼには恐怖など抱くことはない。

「どうした?」

「いや……」

不思議そうな顔を向けられてアリューゼは薄く笑った。曖昧に誤魔化したといったほうがいいだろう。レナスという名の戦乙女に目を奪われたなど、彼の性格を考えれば気恥ずかしくて口にできるはずもない。
ふとレナスが視線を動かした。何もないはずの大地へと目を向ける。その視線の先をアリューゼは無意識に目で追った。

「不死者か?」

「違う。この周辺では感じない。……だが、奴等はこの世界のどこかにまだ潜んでいるはずだ」

キュッと唇を引き結ぶ。神格の存在でありながらその面持ちは人間のそれとよく似ていた。神族という者達がどんな生活を送っているのか知らないが、少なくともレナスの見せる表情は人間のものと近い気がする。さすがに口に出すことなどしないが、アリューゼはふとそんな疑問を覚えるのだ。

「……後悔、しているのか?」

思考に囚われた所為で一瞬レナスの言葉の意味がわからずアリューゼは訝しげに眉を寄せた。凛とした声に目を向ければ、真剣な面持ちのレナスがアリューゼを見据えている。

「俺が?」

鼻で笑うように息を吐き出した。挑発めいた声音にレナスが目を細めるも構わず、アリューゼは腕組みをして笑いの余韻に肩を震わせる。

「その逆だ。感謝こそすれ誰が後悔なんぞするかよ」

傲慢に、不敵に口元をニヤリと吊り上げてアリューゼはレナスを見据えた。
素直ではない彼の、レナスに対する想いなのだと彼女が気付く頃には、とっとと逃げてしまったけれど。

一言だけ告げるなら、きっと「ありがとう」と言いたかったのだろう。









アリュレナで。今手元にソフトがないからかなりエセ臭いな。